せんだい探偵小説お茶会

Sendai Reading-Party of Mystery

20th Report

第20回 せんだい探偵小説お茶会主催

泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』

読書会レポート

執筆者:73番目の密室

時に西暦2015年7月26日-陽射しは獰猛で、焦熱は極まり、街路には陽炎が揺蕩う盛夏の1日。杜の都の一角に鎮座する戦災復興記念館5階の和室に於いて、第20回せんだい探偵小説お茶会が開催されました。参加人数は11名、うち初参加の方が1名。全員が定刻までに到着してくださいました。おかき、大福、薄皮饅頭等のメンバーが持ち寄ったお菓子も各人に行き渡り、直前に手洗いに立ったホストが戻ってくるのを待って(どうもすみませんでした…)15時30分やや過ぎ、和やかなムードで読書会が幕を開けます。

課題書は『亜愛一郎の狼狽』。海外のブラウン神父シリーズと比肩される奇想と逆説と諧謔に満ちた“亜愛一郎シリーズ”の劈頭を飾る短編集。紋章上絵師、アマチュアマジシャンの顔も持つ多芸のミステリ作家泡坂妻夫の代表作として、今尚多くの人に愛されている1冊です。かく言う筆者も本書の熱狂的なファン、未だこれ以上の光彩を放つミステリ短編集にはお目にかかったことがありません(個人の感想です)。

皆様の自己紹介が済むと、いよいよ議題は本の感想へ。本読書会の傾向として以前から「ミステリを読む際にはストーリー性を重視する」という意見の方が多く、本作のような仕掛けに重点を置いた作品は酷評されるのでは…と始まる前には憂慮していたのですが、皆様の声を伺ったところ豈図らんや!殆どの方から好評をいただき、中には「続きを読んでみたい」と仰ってくれる方もおられ、私の杞憂を跡形もなく吹き飛ばしてくれました。ホストとして1ファンとして、実に嬉しい誤算でした。半数以上の方が今回初読ということにも関わらずとても好意的に受け止めていただき、心から『亜愛一郎の狼狽』を課題本に選んでよかった!と思えました。一方で「内容が腑に落ちなかった」「読みにくかった」という声も上がり、やはりアクの強さが人を選ぶ作品であることも確かなようです。また「登場人物の名前が印象的」「亜に相棒がいないのが残念」「“三角形の顔をした洋装の老婦人”が気になる」などの感想をいただきました。最後のご意見に関しては、是非続編を読んでいただきたく…(にやりと口元を歪めながら)

尚この感想を述べる際、亜シリーズを1作目の『DL2号機事件』が雑誌幻影城に掲載された時から読んでいたと仰るTさんが徐にバッグを開き、幻影城ノベルス版、角川単行本版、角川文庫版の『亜愛一郎の狼狽』、そして何と『DL2号機事件』掲載号の幻影城までをも取り出し、メンバーに回覧してくれました。思わぬサプライズに会場がどよめきます。グレイト、それってもう国宝級の代物じゃないですか!?もちろん私も狂喜し、自分のところまで回ってくると喉から手が出そうになるのを必死に抑えつつ(く、静まれ…!)、夢中になって見入りました。その間ホストの役目はそっちのけです。おい、司会しろよ。
ちなみに『狼狽』は上記3種の他に創元推理文庫版からも刊行されており、現在ではそれが唯一版を重ねている形態です。こちらの表紙は2種類あり、参加メンバーの多くは現在流通している表紙の版をもってこられたのですが、偶々私が持っていたのはそれ以前の表紙の版でした。つまり上記3種と合わせ、この日の会場には日本で刊行された『亜愛一郎の狼狽』の全ての表紙が期せずして集結したこととなります。

その後は著者のプロフィールなどを追っていき、一段落したところでメンバーに「収録作中でどの短編が一番好きだったか」という質問に答えていただきました。この結果、最も好評を博したのは『掌上の黄金仮面』。物語上で展開される情景の映像的なインパクトと、真相の逆説の巧みさが多くの人の心を捉えたようです。その他にも『掘出された童話』、『ホロボの神』といった作品も人気でした(『掘出された童話』は賛否がわかれました)。逆に『曲がった部屋』に関しては「作中に出てくるシデムシが気持ち悪い」という意見が主に女性陣から強く、やや敬遠されがちでした(苦笑)。尤も、「シデムシが苦手なだけでトリック等は好き」という声も多数聞こえてきました。他には「『G線上の鼬』は情景がイメージしにくい」という意見も。
またこのアンケートの際、今回の読書会を所用により欠席された仙台のクイーンファンさん(これまでの読書会では皆勤賞を達成されておられました。凄い!)がメールで送っていただいた感想が世話人のMさんにより発表されました。その中でクイーンファンさんは『ホロボの神』を作中1位に挙げ、また『DL2号機事件』についても激賞しておられました。クイーンファンさん、玉稿ありがとうございました。

その後レジュメに乗せた2,3の四方山話を経て雑談へ移ります。「亜愛一郎シリーズやブラウン神父シリーズのような面白さを持つ作品は他にありませんか?」という問いかけには、百戦錬磨の読書歴を誇る本読書会メンバーも中々答えられず。それほど本作含む亜シリーズやブラウン神父譚が、独創性に富んだ稀有な作風であるということなのでしょう。近年「泡坂妻夫の影響を受けた作家」としてしばしば米澤穂信が紹介されていることから、(主に米澤シンパであるホストの強引な先導により)同著者の『満願』『儚い羊たちの祝宴』『追想五断章』などの名も挙がりましたが、やはりこれらも“?”マークの浮遊する回答となりました。泡坂妻夫の奇想と諧謔を受け継ぐ作家が、一日も早く登場することを願って止みません。

そのような話に華を咲かせているうちに終了時間の17時半を迎え、今回の読書会も無事閉幕となりました。参加していただいた皆様、どうもありがとうございました。亜愛一郎の話を2時間思いっきりすることができ、ホストとしては至福至上の時間を過ごすことができました。他の方々にとってもそうであったなら、これ以上の喜びはありません。
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さて、月替わりで、国内ミステリーと翻訳ミステリーを交互に課題本に掲げている当読書会。
次回は、エラリー・クイーン『エジプト十字架の秘密』(角川書店 越前敏也訳)を9月26日に予定しています。
詳細は近日HPにて公開予定です。


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