せんだい探偵小説お茶会

Sendai Reading-Party of Mystery

カテゴリー: レポート

33rd report

第33回 せんだい探偵小説お茶会主催

エラリー・クイーン「スペイン岬の秘密」

読書会レポート

執筆者:クイーン・ファン

 

第一幕

 せんだい探偵小説お茶会がめでたく5年目を迎え、エラリー・クイーン作品の読書会が完全に年の恒例行事に定着した仙台! (昨年も同じような文句でしたが…ひと味違います。)

今回企画したのは、「スペイン岬の秘密」(角川文庫 訳 越前敏弥・国弘喜美代)でした。

 先ほど、ひと味違うと語ったのには訳があります。な、なんと! せんだい探偵小説お茶会で、初の定員締め切りとなったのであります。

 ホストが考えていた定員数は、15名でしたが、18名までの(な、なんと初参加が4名!)応募がありましたので、そこで締め切らせていただきました。他県に比べたら少ないかもしれませんが、時間内でミステリの深淵に触れるには限界の数であったと思います。

 さて、本題に入って、これまでの読書会で取り上げたクイーン作品は、ファンクラブ以外のランキングに取り上げられたものが多かったのですが、「スペイン」はランキングにはいったことはありません(「フランス白粉の秘密」もですね)。ですが1983EQFC(エラリー・クイーンファンクラブ)国名シリーズ+1アンケート7位、1997EQFC全長編アンケート16位、2014EQFC国名シリーズ+2アンケート6位と、クイーンファンの中では、評価が高い作品であります。

梅雨まっただ中ではありましたが、夏日の暑さ厳しい中、せんだい探偵小説お茶会で、どのような評価になるのか? 参加者の数から絶賛の声が上がるのではないか? ホストが読んでいく内に感じた漠然とした不安は、杞憂に終わるのか? と思案しながら、会場で参加者と向きあうこととなりました。

 

第二幕

 毎回、クイーン読書会では、作品にちなんだお菓子が出てきます。福島読書会の世話人の方からは、クイーンだから二人で半分にできる菓子が差し入れされました。ホストからは「スペイン産の材料が使われた菓子」でした。

お菓子を探し回ったのですが、見つけることができませんでした。提供してみると、ひねりが少なく、不完全燃焼気味でありました。言い訳にしか聞こえませんが、このお菓子に対する情熱の少なさも、作品に対して感じた漠然とした不安の表れだったのかもしれません。

 閑話休題。

 さて、自己紹介を終えて読書会は本書の内容へと。参加者の感想は以下のようなものでした。

「おいてけぼりにされた。納得しないうちに話が終わった」

「びっくりするくらい何も憶えていない。1回読んでいたことも忘れていた。読んでいる間は楽しいのに…」

「チャイナの変化球から原点に戻ろうとしたのでは。舞台装置と人物の配置から作者も納得のいく推理ができた作品とは思えるが、作者が迷っているのではないか」

「電話の一人芝居に感心。犯人が下着を身につけたのだろうか?」

「被害者をエラリーが蔑んでいるように思えた」

「犯人は推理しなくても、なんとなくそうかなと思っていた。最初のローザの強気ですごい女子だなと思った。最後は幸せになって良かった。服を脱がしたところがチャイナのことを思い出しました」

「あまりにも、手掛かりがあからさますぎて、犯人がわかりやすかった。でも推理というよりは手掛かりからの感じで犯人を当てた。手掛かりを与えすぎではないか」

「エラリーは母親がいないことから、許しを知らない。だから本作品では、人間的なものがない姿が見られた。ライツヴィルものに繋がる要素も見られた」

「最初の場面が大変だったのに、失踪した人を、そのあと誰も心配していない。だから…」

「登場人物紹介が面白い。ある登場人物の紹介が、かなり非道い」

「○○○○○○○夫人のいわれようが非道い! 死んでもなお、印象に残るなんてすごい!」

「謎解きに関しては評判が高いだけある。しかし、今の読者にはすぐわかるのではないか。ものたりなさを感じた。もっとエラリーにひっかかる影があると良い」

「二組の夫婦の描き方でのギャップが面白く読めた」

「他のクイーン作品に比べると物足りないと思った。警視がいないためかもしれない。冒頭から下降していく感じ。徹底した理論家と登場人物紹介で出ているので、それを作者が行いたかったのかな」

「うまくいいくるめられている感じがした。裸なのにマントや帽子、ステッキが残されていた謎が、一気に解かれるのではなく、マントの理由が明らかになってから解かれるので、二段のデコレーションケーキが一段になってしまったような気がして残念だった」

「意外性から見たら、意外じゃない犯人だったが、外部からか、屋敷内からかを考え、逃走経路を絞り込む論理には隙がないように思える」

「犯人の詰めは甘いんじゃないか。共犯者を逃がしたことは甘いと思う」

 

第三幕

 今回も、感想発表の終わりには、お茶会の重鎮、T氏からインタビュー形式の質問がありました。(実は前回の読書会でお会いした際に予告されていました)

「プロットが穴だらけである。推理に厳密性を欠く。魅力的な人物がいない(探偵が不愉快であることも含む)。文章が下手である。ユーモアに乏しい。スペイン岬はこの五つの要素を全て兼ね備えた作品である。その論証のためにインタビューをしたい」とはじまり,ホストが登場人物に扮して約25分のインタビューが行われました。その内容は、ホストが感じていた不安を大きく揺さぶり、作品世界を崩していきました。不安を大きくされるのではないかと思いましたが、ホストは清々しい気持ちになることができました。「スペイン岬」に激震を与えた主要な質問を簡易版でお届けします。

 犯人へのインタビュー

「救いたい人物のための犯行が、動機ではありますが、自分が疑われないようにするために取った行動のために、周りの人たちに容疑が向けられてしまったのではないですか」

「……すみません」

「時間や場所を限定している割には、計画的な犯罪とは思えないほど杜撰なところが多々見えるのではないですか」

「………動転していたからだと思います」

「屋敷内で殺害せず、別な場所で殺害して死体を隠せば良かったのではないですか」

「……………そうすればよかったです」
 探偵へのインタビュー

「この作品は、探偵であるあなたが文責であると考えてよいのですね」

「…はい」

「人間的要素を数学に置き換えて考えたがるあなたにとって、この事件の最大の問題は被害者がなぜ裸だったのかという謎を解くことでしたね。その解明を始めるにあたって、考えられる説は五つしか考えられないとおっしゃいました。それは、本当ですか?」

「………………………」

「あなたのお得意な論法、この問題について考えられる説は、A、B、Cの三つしかない。A説とB説は間違いである。したがって、正解はC説であるという類いのものは、数学の問題ならいざ知らず、人間の意思や行為に関わるような問題について、ある現象を説明する説をすべて挙げつくすことなどまず不可能だと思うのです。三説しかないと思っていても、必ずD説やE説という見落としがあるものです。繰り返し言います。服を盗む理由は五つしかないというというのは本当でしょうか?」

「…………………………………」

 その後、夏目漱石の『吾輩は猫である』のエピソードを用いられ、論理的な可能性の検討について、推論の信憑性を疑わせるには十分であることを指摘され、探偵はダウン!

 探偵は震える膝をこらえて、なんとかテンカウント以内に立ち上がった!

「○○○○○○○夫人の表現が非道すぎますね。なにか個人的な恨みでもあったのですか?」

「……チロル事件(本作品に名前だけ出てくる未解決事件)の関係者の一人が○○○○○○○夫人に大変似ていまして、その人物に煮え湯を飲まされ、そのストレスを○○○○○○○夫人に向けてしまったのかもしれません」

「読者への挑戦状なるものが挿入されているくらいですから、地の文にウソはないと思われます。しかし!」

「…………………………ぐはっ!」

 探偵はここでノックアウトとなりました。

 T氏のおっしゃることは、もっともでした。私が漠然と感じていた不安(プロットの穴と推理の厳密性)が明確になったところで、インタビューの終了となりました。
第四幕

 「あなたがもっとも好きなキャラクターと場面と台詞は?」

 キャラクターと場面と台詞はリンクしているものがほとんどでした。ここでは、好きなキャラクターを挙げていただいた人数と場面と台詞を合わせた形でお伝えします。

 エラリー(4人)「犯人を告発するシーン」「眼鏡をかけている理由」

 ティラー(4人)「できすぎるところ」「謙虚なところ」

 反面、嫌いな人も何人か。「できすぎるところ」「きざな台詞」 

 ペンフィールド(2人)「エラリーに負けていないところ」

 いない(1人)「かんべんしてください」

 マン夫妻(1人)「喧嘩のシーン」

 ローザ(1人)「強気な行動に出たところ」

 ウォルター・ゴドフリー(1人)「男らしさと優しさ。実はティラーがウォルターでティラーの影武者がウォルターだったのではないか」

 ステラ・ゴドフリー(1人)「夫に正直に話したところ」

 マクリーン判事(1人)「70歳を超えて、寝ずに頑張っているところ」

 ジョセフ・マン(1人)「裸一貫でのし上がったすごい男。一冊の本になりそう」

 コンスタブル夫人(1人)「最後の文章が綺麗」

 他にセシリアが暴れるところや解決シーンも出てきました。

 ホストは、思いもよらなかった意見や考えを聞くことができ、読書会の良さを再度実感することができました。

 参加者の皆さんが述べ終わったところで、2時間の読書会終了時間となりました。1冊の書物で、ぎりぎりの時間に終わったのは初めてのことでした。話したりないことが、それぞれに有り、懇親会へと移ると、ビールや他の飲み物と料理をいただきながら、ミステリ談義で盛り上がることができました。

 最後にT氏から「嫌いな作家なのに、インタビューの質問を考えるのに、結構な時間が掛かったよ」と聞き、「嫌いと言いつつ、実は愛に変わっているのではありませんか」と答えると素敵な微笑を見せていただきました。(本当にありがとうございました!)

 ホストは,今回も皆さんのおかげで,濃密で夢のように充実した時間を過ごすことができ,幸甚でありました。

 参加された皆さんが,正直な意見を語ってくれたことで,魅力とは何かを再度深めていく必要があると確認できました。今後も益々、ミステリの深淵に触れて行きたいと思います。

                                                                               終幕

アンケート結果

今回、読書会でアンケートに16名の方々にご協力していただき,結果が以下のようになりました。

せんだい探偵小説お茶会,それぞれのアンケート結果

プロット サスペンス 解決 文章 論理性 感動・余韻
参加者 6 9 8
参加者 7 6 8 7 8 7
参加者 10 8 8 6 8.5 7.5
参加者 7 3 8 6 6 6
参加者 7 7 8 7 8 6
参加者 5 5 7 5 8 5
参加者 7 8 6 6 7 5
参加者 4 2 4 3 4 1
参加者 6 8 8 8 7 8
参加者 6 6 8 5 7 6
参加者 7 7 8 6 8 5
参加者 6 7 8 8 6 7
参加者 6 6 7 5 7 5
参加者 6 7 5 7 4 6
EQⅢ 6 7 9 8 9 9
ホスト 6 4 10 8 10 7

せんだい探偵小説お茶会アンケートの平均点

プロット サスペンス 解決 文章 論理性 感動・余韻
平均点 6.4 5.9 7.6 6.3 7.3 6.2

EQFCアンケートの平均点

プロット サスペンス 解決 文章 論理性 感動・余韻
平均点 7.7 6.2 8.1 6.2 8.4 6.9

 な、なんと! クイーンに優しいせんだい探偵小説お茶会が、とうとうEQFCより辛い点数をつけてしまいました。もしかすると、クイーンを深く読み込むようになったため、この結果になってしまったのかもしれません。次回のエラリー・クイーン祭りでのアンケート結果も楽しみの一つとなりました。

飯城勇三氏のアンケート回答(Queendom83より抜粋)

01.「初読」の感想

 十一~二歳の頃かな。

 まず,犯人にビックリした。次に,エラリーの推理の鮮やかさに感心。服を脱がせた理由に感心したのではなく,その理由がただ一人の人物と結びつくロジックに感心したのだ――というのは後付けで,ただひたすらに感心した。

 最後に,「あとがき」に感心。普通なら無条件に容疑者から外していいはずの○○○○○○まで検討対象に入れ,しかも,消去するデータまで組み込んでいるとは……。最後の最後まで謎解きにこだわるクイーンに感動。
02.「再読」の感想

 解決編だけ再読すると気づかないのだが,通して読むと,ちょっとズルイ。本作で気に入らない点がもう一つ。パズルとして見た場合,最初の百ページと最後の百ページさえあれば充分なのだ。つまり,真ん中の二百ページほどは不要ということになる。(ただし,これは「パズルとしては」であって,「ミステリーとしては」ではないが。)
03.「スペイン岬の秘密」を以下の点から評価してください。(各項目10点満点。10点の基準はこれまで読んで来たミステリ作品で,10点と思えるものと比較して点数をつけてください。)

プロット=(6),サスペンス=(7),解決=(9),文章=(8),パズル性(論理性)=(9),感動・余韻=(9)
04.あなたがもっとも好きな(印象深い)キャラクターと場面と台詞

キャラ:ピッツ

場面=第十五章のラスト,エラリーが犯人を告発するシーン。

台詞=第七章,ローザから「眼鏡をとるとハンサムだ」と言われたエラリーが「胸に一物ある女を避けるために眼鏡をかけている」と返したセリフ。
ホストのあれこれ

01.「スペイン岬の秘密」を読んだ感想

○今回の読書会に向けて(ジュブナイルも含めて)4回読了。計6回目読了。旅先の事件で,期間が短いことから,物語の起伏(ドラマティックな展開,読む側が翻弄されること)が少なく,国名シリーズの中でも落ち着いた雰囲気が見られると思いました。

 推理については,「裸にされた理由」に初読の時,膝を打ちました。こんなにもシンプルなものだったのかと,唖然とした記憶もあります。その後に展開される,消去法については,フムフム成程と感心しつつも「裸にされた理由」の方がインパクトが強かったので,そちらばかり残っていました。日本のミステリ映画の某シーンも思い出していたからかもしれません。ただ,再読を重ねていくと,飯城さんもおっしゃっていましたが,犯人への絞り込みの仕方と伏線,状況の提示していく順番の巧みさとタイミングに舌を巻き,感心から感動へと気持ちが変化していきました。

 有栖川有栖の「孤島パズル」と重なる部分があると思うところがあります。謎の設定はクイーン作品の方がハデではありますが,物語の感動と美しさは……。ただ,有栖川有栖は「スペイン岬」も念頭に入れて作品を作られたと信じたいと思います。そう考えると「スペイン岬」がなければ「孤島パズル」のような素晴らしい作品は世に出なかったのではないかと思います。

 初読でも犯人を当てることはできるかもしれません(ちなみに私はすっかり騙されました)。だからといって「読者への挑戦」(作者)に勝利したと考えることは難しいと思います。クイーン作品は「犯人を当ててみて」とか「トリックを当ててみて」ではないのです。「エラリーは,どんな意外な推理をしたか当ててみて」と挑戦しているのだと思います。エラリー・クイーン Perfect Guideの「スペイン岬の謎」にも飯城さんが書いていたように,犯人以外を消去する理論を考えた場合,ストイックなまでに「余分な部分」がない状況を作っていったのが本書だと思います。それは,犯人を当てただけでは得られない推理の感動があるからだと思います。

 法月綸太郎の評論「大量死と密室」の中で,「チャイナ」が「大戦間探偵小説」の時代に有りながらも,「大戦間探偵小説」に疑問を感じて「無名の被害者」と「トリック成立のために死体をモノ化してあつかう」ことを行い,「大戦間探偵小説」を超えた荒涼とした光景を見せ,ミステリを新たな地点へと向かわせたのではないかと語っています。その「チャイナ」の次の長編が本作であることを考えると、もっと奇をてらったものになりそうでしたが、そうではありませんでした。もしかすると「チャイナ」以上のことをしてみたいとクイーンは考えていたのかもしれません。そこで、バールストン先攻法ではない「犯人の不在」をしてみようと本作品に取り組んだのではないでしょうか。ただ、解明まで行ってみると,結果的にはオーソドックスなものになってしまったのではないでしょうか。穿った見方をすればメタ的な「犯人不在」を見据えていたのかもしれません。しかし、それだとあまりにも前衛的になってしまうので(現在では何作かあります),着地に至ったらオーソドックスなものになったのでしょう。オーソドックスな犯人隠しに「意外と思える程の消去の理論を用いた推理」を提示した作品が本作なのだと思います。プロットと推理には穴があります。しかし、クイーンは模索しながらミステリの底上げを図っていったことは間違いありません。なぜなら、後進に与えた影響はあまりにも大きいのですから。
02.「スペイン岬の秘密」の点数。

プロット=(6)「」,サスペンス=(4)「」,解決=(10),文章=(8),パズル性(論理性)=(10),感動・余韻=(7)「あまりにも作者クイーンの状況設定の持って行き方が巧みであることと,後続のミステリ作家に影響を与えた感動に。」
03.あなたがもっとも好きな(印象深い)キャラクターと場面と台詞

キャラ:ティラー

P192「ティラー,きみともっと近づきになりたいよ。すぐに気の合う仲間になれそうだ」

P203 エラリーから「一本どうだい」と煙草を差し出されるが断る。

P209「女性に悪態をつく男性には<略>亭主です」との言葉に「お見事!」とエラリーの賛辞。

P424「ティラーはこの事件でただひとつの明るい光であり,褒賞を受けるに値します」

尊敬する人物に認められ,褒められるなんて,なりたい人物の姿がそこにありました。(エラリーの引用についても答える博識なところも良かったです。執事ではないのに貴族探偵の執事やウッドハウス,アシモフも思い浮かべました。)

場面=第十六章全部。

台詞=P89のプルードンの言葉「財産,それは盗奪である」のあとに「すると,気分が軽くなります。ぼくはつまらない人間ですが,相手が-まあ-泥棒なら,引け目を感じることはない。ですから,気楽にやりましょう」

エラリーの諧謔を弄する中にも,小市民的に見えるところがいいです。

飯城さんのあげた台詞も候補でしたが,上記の台詞を一番にしました。
○戯言

 TWIN PEAKS The Returnがはじまりました。鼻息荒くして見ています。それで,なぜ,この場でその話題を出したかというと,この新シリーズで最初に出てきた死体が,『こりゃ,エジプトとスペインですか!』と叫びたくなるようなものだったからです。

(これを語ってもネタバレには全く繋がらないと考えています。ですが,この文章を読んで,見る楽しみを奪われたと思った方がいましたら申し訳ありません) 

31st report

第31回 せんだい探偵小説お茶会主催

パーシヴァル・ワイルド「検死審問」

読書会レポート

執筆者:蒔野正徳

3月20日にせんだい探偵小説お茶会にて、第31回の読書会を開催いたしました。
今回の課題図書はパーシヴァル・ワイルド「検死審問」。
既に絶版になっていることを知らずに告知を出してしまった世話人。。。
周りから指摘されて初めて既に絶版であることを知り、青くなりつつもAmazonをポチり。
な~んだ、マーケットプレイスで200円とか300円で買えるじゃん。大丈夫大丈夫♪・・・と思いつつも参加申し込みが来るまでは安心できないぞ、と。
告知時に訳者である越前先生も参加を表明。
お、ということは越前先生が何冊か提供してくれたりなんて。。。と他力本願なことを思っていたら、手元に1冊しかないことを告げられ、あえなく撃沈。
不安いっぱいで読書会当日を迎えるわけですが、結局はホスト、越前先生を含めて過去最多の16人に参加頂けました。
ありがたやありがたや。
しかも、参加された中で図書館から借りての参加者はおらず、皆さんが何らかの方法にて課題本を入手しての参加で、これには越前先生も私もびっくりでした。
みなさんからのお菓子の差し入れに手をのばしつつ、読書会が開始となりました。
(みなさん、毎度毎度のお菓子の差し入れ、ありがとうございます)
★ ネタバレではないですが、未読の方は以下の感想を読まないほうが、より作品を楽しめるかと ★
みなさんからの感想としては、好意的な意見が多く、
「ベネットが探偵小説について語っている部分がおもしろかった。特に、「腕利きの探偵が・・・」の部分」
「ベネットの小説があったら、好きになりそう。ベネットの作品はハーレクイン作品かも」
「〇〇が嫌いで、死ねばいいのに。と思ってたら、ホントに死んだ」
「最初に芝刈り人が語っているので、家主であるベネットが殺されたと思って、読み進めていたので、中盤でベネットが生きていることが分かって驚いた」
「三谷幸喜作品のように思えた」
「ベネットが推理小説に関してけちょんけちょんに言っているが実は好きなんじゃないかな、と思われた」
「この作品については、批判めいたことは一切言わない。それぐらい好き」
「ユーモアミステリであり、謎解きはどうでもよい」
「証言者ひとりひとりが個性的」
中でも、
「ベネットが殺されていたと思ってた」
という意見が多く聞かれました。
確かに、使用人が証言している段階で、家主やお金持ちが殺される、というのは定番の1つですからね。
★★★ ここまで ★★★
読書会後は懇親会へと流れるのが通例ですが、今回はもうひとつイベントを設けてみました。
当読書会の発起人が作成したミステリーカルタでのカルタ大会です。
取り札がミステリー小説の装丁、読み札が裏表紙の解説という作り。
登場する作品は、過去に当読書会で課題本となったミステリー+α
これがかなりのクオリティー!
量産して販売したら。。。と下世話なことも思いつつ。
さて、参加者全員でのカルタ大会となり、みなさんかなり白熱した戦いを繰り広げていました。
自分の好きな作品はどうしても取りたい!との思いから身を投げ出して取りに行く人も。
当然、自分の好きな作品はよく知っているから、取りやすいはず。
しかし、そこはこのカルタ、一筋縄ではいかないのです。
エラリー・クイーンを題材にすることが多いことから、全取り札の4分の1程度がクイーン作品という始末。
さらには、Xの悲劇、Yの悲劇については、出版社違いで同一作品が複数枚存在するというマニア仕様。
普通、出版社毎の裏表紙の解説の違いなんて覚えてませんから。。。
最終的には、当読書会の重鎮2名が同数の取り札でトップとなりました。
うちの1名はお手付き回数でもトップでしたが。
白熱したカルタ大会の後は懇親会。
ミステリー小説とカルタ大会の感想を肴においしいビールをいただきました。
[Top]

27th report

第27回 せんだい探偵小説お茶会主催

エラリー・クイーン『チャイナ蜜柑の秘密』

読書会レポート

執筆者:仙台のクイーンファン

第一幕
せんだい探偵小説お茶会がめでたく4年目を迎え,エラリー・クイーン作品の読書会が年の恒例行事となり(えっ,いつ?),今回企画したのは,「チャイナ蜜柑の秘密」(角川文庫 訳 越前敏弥・青木 創)でした。
これまでの読書会で取り上げたクイーン作品は,数あるランキングの中でも燦然と輝く評価を得ていましたが,「チャイナ」は1983EQFC(エラリー・クイーンファンクラブ)国名シリーズ+1アンケート9位,1997EQFC全長編アンケート13位,2014EQFC国名シリーズ+2アンケート9位,「密室大集合」アンケート8位と,EQFCの中でも評価の分かれる作品でありました。ですが,作者の一人,フレデリック・ダネイが自選1位にした本書。
梅雨明けを迎えた翌日で,暑さの厳しい中,せんだい探偵小説お茶会では,どのような評価になるのか?とホストは不安を抱えながら,会場で参加者と向きあうことになりました。
ホストは,参加者が少ないのではないか(作品のせいではありません。ホストの宣伝に対する不安です)と危惧していましたが,12名の参加者の方々に参加していただきました。そして,今回も前回の「エジプト十字架の秘密」読書会同様,アンケートも書いていただき,読書会が始まったのでした。

第二幕(「チャイナ蜜柑の秘密」のネタバレあり。未読の方は,絶対ここから下は読まないでください。絶対に後悔します。)

★既読の方は、反転してお読み下さい★
毎回,クイーン読書会では,作品にちなんだお菓子が出てきます。福島読書会の世話人の方からは,意見として「冷凍蜜柑」を進められていましたが,ホストは「蜜柑」から「オレンジクッキー」。そして密室からキューブ型の「生キャラメル」を出させていただきました。他に世話人から「オレンジマカロン」。参加者からは「チョコレートオレンジ」や本物の「蜜柑」をいただきました。
閑話休題。
さて,自己紹介を終えて読書会は本書の内容へと。初読の方は8名,その内で犯人がわかった方は0名と解釈しました。再読の方でカーの「三つの棺」を読む前に,読んでおくべき「密室」作品の中に本書が提示されていたので,読んだというYさん。Yさんは「密室」と知っていたから,「密室に閉じ込められたのは一人だから」という論理で,初読時に犯人を当てることができたようです。某出版社の古い訳の見開き紹介文や密室アンソロジーのアンケート結果にも本書の名前が出ていて,それを目にしてはいましたが,ホストは初読時に犯人を当てることができませんでした。Yさんの慧眼に感服しました。

「感想や疑問点」をキーワードに参加者の方々から,それぞれお話をうかがうと,
「表紙がかわいすぎ」
「全体に楽しげな感じ」
「この密室は作れないのではないか」
「密室の作り方がわかりにくい」
「本当にわかりにくい」
「EQFCの『チャイナ橙クッキング』を見てやっとわかった」
「大丈夫です」
「作者が『逆向き』という言葉をつかって話を創りたかったんだろうな」
「犯人が死なないような場所で,謎解きをすればいいのに」
「創元推理版はですます調で,新訳版は砕けた感じのしゃべり方になっていることに気付いたとき,事件と関係があると思っていましたが,関係なかったので残念でした」
「犯人のところに,入れ替わり立ち替わり人が訪れているシーンで,この人が犯人ではあり得ないと,すり込まされたところに感心した」
「聖職者の格好がイメージできないところが残念だった」
「楽しさはいつ始まるの?結構,体力のいる読み物だった」
「ホテル住まいが,かっこいいと思った」
「みんなの意見を聞かないと気づけない部分が多い作品」
「20分ですべて逆向きにする意味がわからない」
「この犯人の心理がわからない」
「JJマックがプロットでわかったと書いてあって,本当にわかったの?」
「被害者の扱いが,ひどいと思えた」
「論理について,自分が決めたルールにこだわりすぎているのではないか」
「蜜柑に意味がなかっのは,拍子抜け」
「論理がトリックでぶちこわされた」
「手紙を盗むのは,いかがなものか」
「クイーンらしくない作品」
「カーに近いかな。ディクスン・カーが書いたら大傑作になったのでは」
「唯一完全なアリバイを持っている人間が,容疑者に変わってしまうところが面白い」
「論理が無茶苦茶」
「おもったよりも,つまらなくなかった」
「ジューナが可愛かった」
「ディバーシーさんが共犯では。そうだと可能だよね」「犯罪の動機となる人の描写が少ない。冷たい」
「なぜ,こんなことを考えたのかしら」
「やりすぎな感じが好き」
「本棚って,重くて立派なものですよね」
「登場人物紹介が意味をなしていない」
「再読で読み返すと,登場人物紹介が意味深なものとなっている。犯人のところにコーテーションマークがついている」
「クイーンにしては随分機械的なトリックを考えた」
「ツッコミどころが多いので,トリックとアリバイが結果的に印象に残る形となった」
「時代を感じる作品」
「白い僧院,オリエント急行,毒蛇が書かれた年で,後世に残る作品が多く出た年と思った」
「犯人は,わざわざ本物かどうかわからない切手を奪わずに,横領をした方が良かったのでは」
「エラリーの傲慢で尊大なところ,事件をゲームとしてしか考えていない軽薄さが,やっぱり嫌い」
「パズルだけの小説にはつきあいたくない」
「謎の魅力は評価できる」
「メインプロットは単純だが,本筋とは関係のない筋で膨らましている。三分の一ぐらいの長さにできるとすっきりしたのではないか」
「タンジェリンが中国切手のことを語っているので,タイトルは中身にリンクしていた。国名シリーズの題名の中では良いと思えた」
等々,盛りだくさんな内容が出てきました。その中でも,密室トリックはわかりにくい,という意見は,ほとんどの人が感じていたようです。そして,「そんなに,嫌いじゃない。わりと面白く読める」等々,(気を遣っていないことを信じて)面白い読書体験だった様子も窺えました。

感想発表の終わりには,お茶会の重鎮,T氏から「プロットについては無理がある。犯人に問いただしたい」とホストへと突然の依頼が入り,いきなり8分半の裁判劇が始まったのでした。ホストはアドリブで答えるはめに。その中から,終盤の名場面と思われるところを,お届けします。(内容をわかりやすくするため一部文言を変えてあります)

T:「犯行場所を別なところにして,例えばホテルで会うようにして,犯行に及ぶと危険は少なかったのではないですか」
ホスト:「それをすると,自分がカーク氏になりすましたときに,X氏(被害者)に疑われるのではないか。それを最小限にするためには,カーク氏の事務所を利用した方が良いのではないかと考えました」
T:「でも,相手は初対面ですよね」
ホスト:「カーク氏は社交界にも出ていたので,写真で知られているかもしれないと思い,事務所を利用することに決めました」
T:「ともあれ,ああいう形でX氏に会って,殺して切手を奪ったわけですよね。そのとき,はじめて,相手が神父でカラーが後ろ前なのに気付いたと。そこで,後ろ前のカラーとネクタイがないことを隠すために部屋の中のすべてのモノを逆向きにした。ふつうの人ならこういう発想は浮かばないと思うんですが,あなたは探偵小説マニアなんですか」
ホスト:「はい」
T:「それで,密室のトリックも考えていたわけですね」
ホスト:「そうです」
T:「ただ,服をすべて逆向きにしてもネクタイがなかったことは隠しようがないのではないですか」
ホスト:「……そのとおりです」
T:「そうすると,カラーの後ろ前を隠すためだけに,あれだけの偽装をしたということになりますね」
ホスト:「はい。本当であればネクタイを取りに行きたかったのですが,取りに行けなくて。あと,伝道師が神父とは知らなかったので,知っていたらネクタイを持ってきていたかもしれません」
T:「あの部屋の中のすべてを逆向きにする。しかも着衣からは,ラベルを切り取る。そういう作業をすべてするのは,なかなか大変だと思いますけども,例えば本がいっぱい詰まったままで本棚を動かせましたか」
ホスト:「一度,本を出してから動かしました」
T:「そうすると,すべての作業をするのに,どれくらいの時間がかかったのですか」
ホスト:「20分でした」
T:「……なるほど。よほど素早く立ち回ったわけですね。作業中,誰か来ませんでしたか」
ホスト:「来ませんでした」
T:「もし、誰か来たらどうするつもりでしたか」
ホスト:「今,でれないと答えます

T:「そうではなく,ドアを開けて入ってきたらです」
ホスト:「両方の扉を閂で閉めていました」
T:「普通の客だったら,それで済んだかもしれませんが,カーク氏が来たら,どうするつもりでしたか」
ホスト:「………………………カーク氏は戻らないと思っていました」
T:「そういう,あやふやな推測をもとに,そんなリスクのある行動を犯すものでしょうか」
ホスト:「犯さないですね」
T:「そもそも,後ろ前のカラーを隠すだけなら,衣類を全部脱がせて,持ち去った方が手っ取り早かったのではないですか」
ホスト:「それが,したかったのですが,クイーンの別の作品でするので,できませんでした」
T:「わかりました。やっぱり,この犯行には無理がありますね」
(Tさんからの,突然の申し出,本当に楽しませていただきました。幸甚の至りです)

 裁判劇後に,ふと「そもそも,後ろ前のカラーを隠すだけなら,衣類を全部脱がせて,持ち去った方が手っ取り早かったのではないですか」の回答が,楽屋落ちみたいなもの以外も,あったことに気付きました。それは,犯人は犯行後,密室に閉じこもるわけですから,衣類を隠す場所に悩んだのではないか。密室もしくは待合室で隠された衣類が見つかると,すぐに自分が疑われてしまうのでは,と考えた末の行動だったのかもしれません。

 また,この裁判で,少ない脳髄を無理矢理しぼってしまい,電池切れの状態になってしまったホストは,Y氏のこの後の質問にとんちんかんな答えをしてしまったこと,その回答をするために,待たせてしまった参加者の皆さんにお詫び申し上げます。(録音を聞くと,本当に忸怩たる思いがしました。Y氏の指摘通りです)
第三幕 (ここからは,未読でも読むことができます)
「ダネイがお気に入り作品の一つとして「チャイナ」を挙げたのはなぜだと思いますか?」という質問でお話をうかがうと,
「頑張って,チャイナと蜜柑を盛り込んだぜ。自分で話を作って,着地させたぜ」
「自分が好きな要素を盛り込んだ。読者のためというよりは,自分のための作品。縛られることなく,自由に書いた」
「自分が書きたいことを,全部書けた」
「やりたいことは,やったんだろうな」
「デビューしてから時間がたち,書けるようになって,遊び心のあふれる作品にできたからではないか」
というご意見をいただけました。自由に楽しみながら創っている様子が,読む側にも伝わったのかもしれません。

第四幕
「あなたがもっとも好きなキャラクターと場面と台詞では」,ジューナの人気が断突でした。
少数意見では,ルイーズ,オズボーン,バーンが出されました。特筆すべきなのは,エラリーが最低最悪だという意見がいくつか出てきたことでした。そして具体的な場面と台詞の回答で多かったのが,マイナスのエラリーでした。エラリーは,たしかにホストである私も,ひどいと思うところは多々あります。ですが,胸を張ってこう言いたい,何も思われないよりは嫌われる方が記憶される。私は,そういう人にあこがれると。(ただし,なりたいというわけではありません)
ルイーズは峰不二子みたいと,同性の方からの意見がありました。オズホーンは,悲哀を感じるところが印象に残ったようです。今作品はキャラクターに対して,あまり思い入れできないという意見もありました。それについては,ボーナストラックのホストのあれこれの中で触れたいと思います。興味のある方は,そちらもご覧ください。ただし,「チャイナ蜜柑の秘密」を未読の方はご遠慮ください。
最後の15分で,EQFCの飯城勇三氏のアンケートと,ホストのあれこれを話して2時間が過ぎ,読書会は終了となりました。ホストは,今回も皆さんのおかげで,濃密な夢の深淵をのぞき見たような充実した時間を過ごすことができ,幸甚であります。
参加された皆さんが,正直な意見を語ってくれたことで,この作品に感じる魅力を再確認できた思いであります。私は,今後もミステリGO! でミステリの深淵に触れて行きたいと思います。
懇親会では,美味しくビールを飲むことができました。そして、今回もミステリの話題ばかり,
とにかく最高でした。
終幕
ボーナストラック
(「チャイナ蜜柑の秘密」のネタバレあり。未読の方は,絶対ここから下は読まないでください。絶対に後悔します。)
今回、読書会でアンケートにご協力していただき,結果が以下のようになりました。
せんだい探偵小説お茶会のアンケート結果

プロット サスペンス 解決 文章 論理性 感動・余韻
参加者 5 7 4 1 4 6
参加者 7 6 6 6 10 6
参加者 6 4 7 8 7 5
参加者 7 6 7 6 7 5
参加者 5 3 6 6 7 3
参加者 5 4 5 9 3
参加者 4 3 7 6 5 2
参加者 7 6 9 6 7.5 5
参加者 7 6 7 7 6 6
参加者 6 5 6 6 5
参加者 8 8 6 8 6 7
ホスト 8 5 8 8 8 9

EQFCのアンケート結果

プロット サスペンス 解決 文章 論理性 感動・余韻
平均点 6.3 5.3 6.8 6.2 6.9 5.2

せんだい探偵小説お茶会のアンケート結果

プロット サスペンス 解決 文章 論理性 感動・余韻
平均点 8.5 7.5 8.7 7.7 8.8 7.0

お茶会の方が,EQFCよりも若干厳しい評価ではありました。お茶会の皆さんだったら,すぐにFCに入会できそうてすね。「エジプト」のお茶会評価は,参考で掲載しました。

飯城勇三氏のアンケート回答(Queendom89より抜粋)
01.「初読」の感想
「あべこべ」に結びつけるエラリーの推理にわくわくした。(略)
02「再読」の感想
再読するたびに評価は低くなる。(略)しかし,何度再読しても,相変わらず,「妙に面白い」。なぜだろう。(略)
03.「チャイナ蜜柑の秘密」を以下の点から評価してください。(各項目10点満点。10点の基準はこれまで読んで来たミステリ作品で,10点と思えるものと比較して点数をつけてください。)
プロット=(6),サスペンス=(5),解決=(7),文章=(7),パズル性(論理性)=(8),感動・余韻=(5)
04.あなたがもっとも好きな(印象深い)キャラクターと場面と台詞
キャラ:ジェームズ・オズボーン
アイドルが自分を見て微笑んだだけで「彼女は俺に惚れているんだ」と勘違いしてストーカーをするオタク的な人物に思えた。
場面=(エラリーとアイリン・リューズの対決シーン)
「青年探偵と美貌の女犯罪者の対決」というのは,実にわくわくする。
台詞=(ラストのテンプル嬢のセリフ)
我々読者は,以前の作品で「意味がなさそうなものに意味を見いだす」エラリーの姿を何度も見ているのだから,「なにもありません。あの男はおなかがすいていたのだという以外」は,ないですよね。ひよっとして,これもまた,「あべこべ」なのだろうか。「あべこべの密室」,「あべこべの手掛かり」,そして「(いつもと違う)あべこべの推理」。作中人物にこんなツッコミをさせるということは,クイーンは確信犯だったに違いない。
05.ダネイがお気に入り作品の一つとして「チャイナ」を挙げたのはなぜだと思いますか?
「チャイナ」に見られる変なところは,間違いなくダネイの発想だろう。しかしリーはこういう発想はあまり好んでいなかったらしい。つまり,ダネイが本作品を気に入っているのはリーの抵抗に打ち勝って自分の好みを前面的に押し出せたから。では,なぜリーが一歩引いたかというと,「シャム」での「山火事が迫る中での殺人」というアイデアと全編に漂う緊張感,双子の少年の魅力的な描写から,ダイイングメッセージのアイデア以外をリーが主導権を握って書き進めたからと思える。マンネリ打破のため二人がそれぞれ自分の好みを全面的に押し出した作品が「シャム」と「チャイナ」だったのかもしれない。(「災厄の町」と「靴に棲む老婆」もそうかもしれない。)

ホストのあれこれ
01.「チャイナ蜜柑の秘密」を読んだ感想
○今回の読書会に向けて3回読了。計5回目読了。これまでのエラリーの活躍はヒーロー的に思えていましたが,本作品では道化師のようなイメージに。小栗虫太郎の法水麟太郎ものや,アントニー・バークリーのシェリンガムものを思い出しました。個人的には暴走する推理が好きなので,本作品のエラリーの暴走ぶりに興奮しました(符号に対する執着と推理。そして窃盗と不法侵入)。初読時は密室の意味や推理に感心して面白く読んだ記憶があります。ただ,再読してみるとおかしなところが多々見られるようになりました。しかし,Queendom「チャイナ」特集と法月綸太郎氏の「笠井潔論(大量死と密室)」を繙くと,本作品の違った魅力がいくつも見えてきました。
飯城さんの「妙に面白い」という感想には,同感であります。
○違った魅力とは何なのか? 本格ミステリとしての瑕疵は置いといて,作家としてのクイーンの変遷をたどる上で本作品は,ターニングポイントになっていることがQueendom「チャイナ」特集から読み取ることができました。クイーンはルイス・キャロルが好きで,その嚆矢となったのが本作品で有り,「アリス」三部作,「チャイナ」「キ印ぞろいのお茶会」「神の灯」が作られたと考えられています。「チャイナ」に瑕疵があった分,「キ印」「神」と改善されていく様子もわかります。「チャイナ」は長編向きではなかっただろうという意見もあり,クイーン自身それを感じて,アリス三部作の後ろの2作を短,中編としたのかもしれません。その三部作を順に追って読むと,かなり面白いです。是非!(※1参照)
また,ライツヴィル作品以後の作品で見られるエラリーの暴走推理(奇妙な論理)の片鱗がここから始まったとも思われます。
○違った魅力その2。笠井潔はミステリが生まれた理由として,「人類が初めて体験した大量殺戮戦争である第一次大戦と,その結果として生じた膨大な屍体の山が,ポーによるミステリー詩学による極端化をもたらしたのである。戦場の現代的な大量死の体験は,もはや過去のものかもしれない尊厳ある,固有の人間の死を,フィクションとして復権させるように強いた。
機関銃や毒ガスで大量殺戮され,血みどろの肉屑と化した塹壕の死者に比較して,本格ミステリーの死者は,二重の光輪に飾られた選ばれた死者である。犯人による,巧緻をきわめた犯行計画という第一の光輪,それを解明する探偵の,精緻きわまりない推理という第二の光輪。第一次大戦後の読者が本格ミステリーを熱狂的に歓迎したのは,現代的な匿名な死の必然性に,それが虚構的にせよ渾身の力で抵抗していたからではないか。」(「新本格」派に若者の支持/朝日新聞92年9月1日付夕刊)と語り,この時代に生まれたミステリを「大戦間探偵小説」と論じています。この「大戦間探偵小説」とは「長編本格推理の黄金時代」(※2参照 ヴァン・ダイン「探偵小説ゲーム論」や「フェアプレイの原則」で象徴した「謎-論理的解明」を基本構造とする形式主義的な探偵小説)のことと考えると法月綸太郎は補足しています。そして,法月は自身の評論「大量死と密室」の中で,「チャイナ」が「大戦間探偵小説」の時代に有りながらも,「大戦間探偵小説」に疑問を感じて「無名の被害者」と「トリック成立のために死体をモノ化してあつかう」ことを行い,「大戦間探偵小説」を超えた荒涼とした光景を見せ,ミステリを新たな地点へと向かわせたのではないかと語っています。クイーンファンとして鼻息荒く首肯してしまいます。また,他の登場人物の記号化も他作品を凌駕しているとも思われました。
○初読が創元推理文庫版で,その見開き紹介文も,とても魅力的だったことを覚えています。ですが,これは密室大集合のアンケート結果とともに「むっ」とうなってしまうところがありました。以下紹介文。
「宝石と切手収集家として著名な出版業者の待合室で,身元不明の男が殺されていた。しかも驚くべきことには,被害者の着衣をはじめ,その部屋の家具も何もかも,動かせるものすべて”さかさま”にひっくり返してあった。この”あべこべ”殺人の意味は何を意味するのか? 犯人はなんの必要があって,すべてのものをあべこべにしたのだろう? ニューヨーク・タイムズはクイーン最大の傑作と激賞したが,事実,国名シリーズの中でも卓抜した密室殺人事件として,特異の地位を占める名作である。」
事務室,待合室が死体によって「密室」を作られたことがわかると犯人がわかる仕組みになっているので,この紹介文とアンケートはいかがなものかと思っていました。ですがQueendomと法月の評論から,「チャイナ」の密室は,これまでの密室を扱った作品とは違って,犯人を閉じ込めるもので,作品とリンクした「あべこべの密室」と思えるようになりました。「チャイナ」そのものが,ミステリに対して”あべこべ”を提示し,ミステリを次の段階,より深淵へと導くマイルストーンの一つだったのかもしれません。

02.「チャイナ蜜柑の秘密」の点数。
プロット=(8)「魅力的な謎の提示を評価してです」,サスペンス=(5)「ちょっとつかみどころのないユーモアの方が横溢していたので。ルイス・キャロルの「アリス」シリーズを意識指定のでしょうかね。」,解決=(8),文章=(8),パズル性(論理性)=(8),感動・余韻=(9)「作品だけではなく,Queendom「チャイナ」特集と法月綸太郎「大量死と密室」も繙いた感銘から。」

03.あなたがもっとも好きなキャラクターと場面と台詞
キャラ:フェリックス・バーン「最近,嫌われる人物の行動について興味があり,つい魅力を感じてしまいます。でも,対した役どころではなかったですね。やっぱり暴走推理するエラリーですかね。」
場面=P324~P330。「読者への挑戦まえはワクワクしてしまいます。そしてロバート・ブラウニングの詩が入ってきたことにも。」
台詞=「あの蜜柑色の切手のことですよ。実のところ,あまりに魅力あふれる偶然の一致なので,いつかぼくが哀れなオズボーンと優しい顔の中国の伝道師の事件を小説化することになったら,”チャイナ蜜柑の秘密”という題名をつける誘惑に勝てそうもありません!」(これまで,題名に冠された手掛かりには,必ず意味を持たせてきたクイーンが,(本の主題,あべこべを意識して? )意味を持たせず,ただ題名につなげるエピソードにしたので,この台詞を選びました。)
04.ダネイがお気に入り作品の一つとして「チャイナ」を挙げたのはなぜだと思いますか?
○「なんて,ぼくは,すごい謎と解決を思いついたんだろう。そして,あべこべで全てやり遂げれば,これまでの形式化されたミステリを変え,新しいミステリを作れるかもしれないぞ」と思い、実際そうできたからではないでしょうか。ちなみにダネイの自選ベストは「チャイナ蜜柑の秘密」「中途の家」「災厄の町」「九尾の猫」「キ印ぞろいのお茶会」「エイブラハム・リンカンの鍵」です。(法月綸太郎の「大量死と密室」の中では「九尾の猫」についても触れられています。この作品とのつながりの評論も面白い! 読みたい方は,本書とエラリー・クイーン「九尾の猫」,笠井潔「矢吹駆シリーズ」,G・K・チェスタトン「折れた剣」,アガサ・クリスティー「ABC殺人事件」,S・S・ヴァン・ダイン「僧正殺人事件」を読んでからじゃないと後悔します。)

○ちなみにEQFCでのアンケートの平均点は,(2010/2~6)以下のようでありました。

プロット サスペンス 解決 文章 論理性 感動・余韻
参加者 6.7 5.6 6.5 6.2 6.9 5.6

(※1参照)
「キ印ぞろいのお茶会」『江戸川乱歩編世界短編傑作集4』創元推理文庫に収録。
「いかれ帽子屋のお茶会」『世界の名探偵コレクション』集英社文庫に収録。
「マッド・ティー・パーティー」『神の灯』嶋中文庫に収録。
「神の灯」『エラリー・クイーンの新冒険』創元推理文庫に収録。
「神の灯」『神の灯』嶋中文庫に収録。
(※2参照)
小説世界から社会的主題や人間の内面的な位相を消去することで、フェアで知的な論理ゲーム空間を構築することにあった。「項」と「項」を論理的に組み合わせて作る論理式のような作品こそが目指すべき理想像と考えられていました。

余談
○クイーンはルイス・キャロルだけではなく,ルーシー・モード・モンゴメリも読んでいてプラウニングの詩を引用したのではないかと思われます。なぜなら,エラリーのヒロインとして登場する女性は,赤毛である場合が多く見られるからです。(ニッキー・ポーターは作品によって髪の色が赤毛であったり、とび色であったり、ブロンドになったりしています。長編では赤なのでモンゴメリ作品の主人公のイメージがあって,それが投影された可能性が,あるのではないでしょうか。)
○前回の読書会でも触れていますが,今回もあえて触れさせていただきます。映画監督のデヴィット・リンチがクイーン作品の影響を受けていると妄想しています。今回の「チャイナ」は,リンチ作品の「ツイン・ピークス」とリンクする部分が多くあるように思いました。それは,「暴走推理の探偵」「あべこべの部屋(ブラック・ロッジとホワイト・ロッジ)」「奇妙な人々の事件と,関係ありそうでなさそうなエピソード」等です。物語の根幹をなす部分なのですから,たった3つじゃないかとは,言わないでくださいね。2017には,「ツイン・ピークス」の新シリーズが始まります。興味のある方は是非ご覧いただければと思います。(本当に毎回,デヴィット・リンチについて,しつこくてすみません。)

[Top]

25th report

第25回 せんだい探偵小説お茶会主催

カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』

読書会レポート

執筆者:73番目の密室

杜の都を覆う満開の桜もその花弁を徐々に散らしはじめ、葉桜へと変貌を遂げつつある4月中旬の土曜日。もはや我が会ではお馴染となった戦災復興記念館の一室において、第25回せんだい探偵小説お茶会が催されました。

この度の課題書は黄金期の巨匠ディクスン・カーによる『白い僧院の殺人』(本書の執筆に際してはカーター・ディクスン名義を使用)。“雪の密室”を扱った古典的佳作です。この課題書と軌を一にするようにこの日は季節外れの猛吹雪に……見舞われることもなく(笑)、穏やかな気候の下絶好の読書会日和となりました。些か時期を失した感は免れませんが、ここはひとつ舞う花弁が雪の代役を果たしてくれたということでご勘弁を願いたく思います……我ながら苦しいのは承知しております、はい。

この度の読書会の参加人数は15名。宮城、山形、福島からお集まりいただいたのに加えてサプライズ、なんと別件で仙台を訪れていた札幌読書会の世話人Aさんが急きょ足をお運びくださり、1道3県にまたがる参加者を迎えての堂々たる盛会と相成りました! かねてより我が読書会ではクイーンの課題書は(主にある1人のメンバーの瞠目すべき熱意により)頻繁に扱う一方、昨年暮れまでカーは一度も取り上げられたことはなく、会中のカー派は内心密かに「ぐぬぬぬ」と切歯扼腕して……いたかはともかく(笑)、この不遇の時を経て昨年の12月には遂に初のカー作品『ユダの窓』読書会が開催され、更に時を置かずして今回に及びこの盛況ぶり。「やはりカーこそミステリの帝王! すわ下剋上の刻来れり、いざいざ!」と内心カー好きの私が増長してしまったのもむべなるかなと存じますが(何故時代小説調?)、これが愚かな早合点であることに気づくのにさして時間は要さなかったのであります……。

さて、まずはレジュメとメンバーの方々に持ち寄っていただいたお菓子が配られる処から始まるのは我が会の恒例ですが、今回持ち寄られたお菓子はAさんがご持参くださった札幌銘菓「白い恋人」はじめ、判で押したようにホワイトチョコ系ばかりという結果に(笑)。“雪”の密室を扱った作品で序盤に毒入りチョコレートが送られる事件まで発生するとなれば、やはり皆さん考え付く処は同じだったようです。他人ごとのように書いていますが、ホストが持参したお菓子もご多分に漏れずアンテナショップで購入した北海道産ホワイトチョコでありました。商品が誰ともバッティングしなかった時は心底ホッとしたものです。
そんな中、一際異彩を放ったお菓子はご自身大のカー・ファンでもあられる福島読書会世話人・諸葛亮証明さんがお持ちくださった二本松銘菓・御菓子処日夏の最中。日夏(H)の最中(M)ということで、H・M卿が活躍する本書にちなんだお菓子としてお持ちくださったとのこと。この諸葛亮さんの説明に、同じくカーに一家言を持たれる我が読書会重鎮Tさんは「うーん」と首を傾げておられました(笑)。ああ、さっそくカー派の結束が崩れていく……。

そんなこんなでお菓子とレジュメも行き渡り、各々の自己紹介へ。名前、好きな作家、最近読んで印象に残った本、等々。そして“カー作品についてどう思うか?”という質問にも答えていただきました。普段の読書会においては、課題書の作家の作品を「(読書会の為に)初めて読んだ」「課題書しか読んだことない」という参加者の方が何人かいる場合が殆どなのですが、今回に関しては参加メンバー全員が事前に何らかの形でカー作品に触れたことがあるとのことで、(賛否は分かれましたが)1人も余すことなくカーへの印象を述べていただけました。古典が読まれなくなったと叫ばれて久しい昨今にあって尚これだけの既読率。やはりミステリファンの間でカーは依然避けて通れない作家なんだなあ、とその存在感を改めて実感させられた気がしました。思えばここが今読書会におけるカー評価のピークだったかもしれません。

そうした自己紹介も終わり、いよいよ課題書の感想を1人ずつ述べていただく段となりました。
以下、発表された感想を羅列しますと、

「合わなかった」
「(キャラクターが)誰が誰だか区別がつかなかった」
「長すぎる、もう少し短くまとめてほしかった」
「読みづらくて読了までに時間がかかった」
「文章が(読みづらくて)頭に入ってこなかった」
「H・M卿登場までが退屈でツラい」
「論理的だがクイーンならもっと上手く書ける」(どなたのご発言かは記すまでもありませんね・笑)
「建物の構造やキャラクターの動きなどが分かりづらく、状況を理解するのが大変」
「リアリティがない」

等々……もう、惨憺たるものです(苦笑)。ホストとしては「かつてここまで不評が噴出する課題書があっただろうか……」と、思わず遠い目になりかけました。
とりわけ「読みにくい」「中盤が退屈」という2つの感想が多く、カーマニアの方々含めほぼ全員が述べていたのではと思います……確かにホストも読書会に備えて読み返した際、「あれ、こんなに中盤読みにくい作品だったっけ……?」と面喰ったものでしたが(笑)。この件に関しては「(解決までの)話に起伏がなく平板で、キャラにも面白味がないから」「カー得意のオカルト要素がないから」などの分析が寄せられました。また「カーだから読みにくいのは仕方ない!」という擁護(?)の声も。

唯そんな中にあってやはりメイントリックそのものへの評価は高く、「この時代としては斬新!」「トリックによって状況がひっくり返されたのは感心」といった好意的な感想が多く挙がりました。またカーは全作読んでおられるというAさんからは「カーは長編では全部で5つの足跡トリックをものしているが、その中で最も綺麗に決まっている」とのご意見もいただきました(一方で「(トリックが)行き当たりばったりだ!」という声や「このトリックが実行されたなら現場に○○が残ってないのはおかしい」といった矛盾点への言及もありました)。
更に探偵役であるH・M卿の破天荒なキャラクターは大変好評で、「H・M卿が登場してから一気に頁が進みだした!」と言う意見が大勢を占める結果に。これと併せて「もっとはやく登場してほしかった!」という声も(笑)。無味乾燥な物語の中にあって一服の清涼剤ともいえるユーモラスさが人気の理由なのか、ともかく卿のファンであるホストとしてもこの好評ぶりは望外の喜びとなりました。

上記のような幾何かのフォローはあったものの、殆どの方の本書の総合的な評価は「合わなかった」か「普通」というものでした。序盤から不評続きの流れは一向に変わらず、途中「普通だった」という感想が立て続けに起こった時は、それでホストが「盛り返してまいりました!」と実況してしまった程(笑)。カーを制覇ないしはほぼ制覇しておられるという重鎮の方々まで評価が芳しくなく「普通」止まりで、これは課題書を選定した私の責任問題に発展しやしないかと内心冷汗ものでしたが……。
そんな中、唯一肯定的な声を挙げてくださったのが感想発表のトリを飾られた諸葛亮さん。それまでの不評の流れを一掃せんばかりに「(初読時に)読み終わって「あっ!」って声を挙げた初めての作品」「作中の状況を成立させる為に要素を重ねるに重ねたカーの手腕はすごい!」「この解決は美しい(某ドラマの決め台詞風)」と絶賛の嵐。更には(日本人キャストで)実写化する際のキャストまで考えてくださり、マーシャ・テート=藤原紀香、H・M=西田敏行……これ以降はネタバレになるのでオフレコとのことです(笑)。氏が『白い僧院の殺人』のファンということは以前から窺っておりましたが、その言を裏打ちしてあまりある、本書へ注ぐ愛情の深さがひしひしと伝わってくる熱弁でした。ホストも1ファンとして拝聴して感激するとともに、「否定的意見だけで終わらなかったー!」と密かに胸を撫で下ろしました(笑)。

一通り感想を述べあった後は作品に関する四方山話。作中の事件が60年代に現実に起こったシャロン・テート事件を連想させるという意見や(もちろん現実の事件の方が後で小説のモデルということはありません)、「原文が古臭いので訳には工夫が必要では?」といった提言も発信され、尚活発な話し合いは続きました。

ここで話は前後しますが、実は感想発表の際各参加者の方に「本作以外でおすすめの“足跡のない密室”を扱った作品はありますか?」という質問をホストから投げかけていました。この回答の中で複数人が挙げたのは(以下著者の敬称略)チェスタトン「翼ある剣」、横溝正史『本陣殺人事件』、有栖川有栖「人喰いの滝」、そしてカー(カーター・ディクスン)の『貴婦人として死す』といった顔ぶれ。特に「翼ある剣」と『本陣殺人事件』の人気は高く、さすが東西両巨匠の面目躍如といったところでしょうか。他に登場した名前は島田荘司『斜め屋敷の犯罪』、高木彬光『白雪姫』、フレドリック・ブラウン「笑う肉屋」、麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』等々。まだ読んだことのない作品も多数紹介していただき、密室中毒のホストはホクホクでした(笑)。皆さんありがとうございました!

そうこうするうちに時間となり、無事閉会。今回皆さんの感想を拝聴して思ったのは、「やはり見事なトリックだけでは読者の心は掴めないんだなあ」ということ。『白い僧院~』のトリックに関しても概ね好評だったかと思いますが、それでもその周囲を彩る物語が平板だった為に作品全体としては不評が大勢を占める結果に落ち着いたように見受けられます。私はどちらかというと(ミステリに関しては)“トリックさえ良ければ後はおまけ”と考えてしまう傾向のある人間なので、ミステリにも様々な見方があって奥行が深いものであることを改めて教えられ、眼を開かれた心持ちがしました(逆にトリックしか視てないからこれまで他の方々には好評な課題書でも1人だけ不平満々だったりしたのかな、と我が身を振り返って視野の狭さを反省してみたり・笑)。

ただ課題書は不評極まれりだったものの(苦笑)、それで会の雰囲気が悪かったかというと決してそんなことはなく、終始和やかなムードで楽しくお話ができたのではと思います。やはり「本を読んで大勢で意見を交わし合う」という行為そのものが(普段中々機会のないことでもあり)とても魅力的なものであって、だからこそ読書会という場にこれだけ多くの方が集ってくれるのでしょう……と、これは会後の懇親会で諸葛亮さんが仰られたことの受け売りですが(笑)。課題書の内容如何でその楽しさが減じることは些かもないのだということを今回改めて実感するとともに、読書会という“空間”の貴重さを再認識させていただきました。決して課題書選定の責任逃れをしているわけではありませんので、ご理解いただきたく。

素晴らしい時間を共につくりあげてくださった皆さんに感謝の意を伝えつつ、今回は筆をおかせていただきます。
余談ですが次回の我が会の課題書が『葉桜の季節に君を想うということ』なのですが、葉桜に言及した冒頭を書いたのはその情報を聞く前のことで、予期せぬ仄めかしになってしまったことに自分でもちょっと驚いています(笑)。もちろん冒頭を書いている時に彼の作品が頭を過っていたのは言うまでもありません。

[Top]

24th report

第24回 せんだい探偵小説お茶会主催

白井智之『東京結合人間』

読書会レポート

執筆者:仙台のクイーンファン

2月20日に第24回目となるせんだい探偵小説お茶会を開催しました。
第1回読書会(当会では、第0回と呼称していますが。)が2013年1月13日に開催されましたが、それから3年目を迎えることが出来ました。

昨年、2周年目の作品として取り上げたのが当読書会の発起人であり、初代世話人である白井智之さんのデビュー作「人間の顔は食べづらい」。そして記念すべき3周年目の嚆矢も同じく白井智之さんの第2作「東京結合人間」となりました。
デビュー作は横溝正史ミステリー大賞史上最大の問題作と謂われ、本格ミステリ・ベスト10で21位の評価を受けましたが、本作品はデビュー作を凌駕する評価で、本格ミステリ・ベスト10で8位、このミステリーがすごい!で16位となりました。
東京に在住しランキング入りした作家さんが、仙台の読書会へ来ていただけるのだろうかと心細さを感じてはいましたが,白井さんに快諾していただき読書会の参加者は歓喜の声を上げることとなりました。

ただし,今回の作品はデビュー作以上に性と暴力のハードな描写が含まれています。読書会に参加される方は,どのような方達なのかと期待と不安がありました。

白井さんとお会いした際,読書会の参加者人数を知らせると「ほんのちょっとじゃなくて良かった」と話される姿は,「本当にこの好青年が教育委員会が毛嫌いしそうな作品を書いたのだろうか?」と作品とのギャップにミステリ作家の深淵さを感じさせられました。

読書会参加者3名は,白井さんと昼食もご一緒させていただきました。ミステリー文学館での企画展や視聴者参加型推理番組の話題で盛り上がり,4人で同じ親子丼を食しました。和やかに食している間、鶏のボンジリらしきものを口にしたとき、東京結合人間の冒頭を想像したのは私だけでしょうか?食事中にはもちろん口にすることができず,その後も口にできませんでした。その理由は………読書会参加者メンバーの構成にありました。

今回は東京(作者),福島、宮城から合計11名が参加。内、初参加が1名でした。急遽インフルエンザと仕事で参加できない方が2名出たので,全員参加であれば13名でした。仕事で参加できなかった方は懇親会の2次会から参加されました。

さて,親子丼のボンジリの件ですが,なぜ口に出さなかったかといえば,女性が7名という,女性がこれだけ多い会は初めてというバランスだったからであります。いくら鈍感力の優れたホストでも,躊躇したというわけです。が,読書会が開催されるとホストの想像を超える発言が次々と出てきたのでした。その件は各々の感想で…。

今回の会場は和室。メンバーが開場入りし障子を開けると、5m程先に隣家の壁が見えました。ここで密室殺人事件が起きた場合、人間ではその壁に跳び移るのは不可能。その状況を見てメンバーの思い浮かべたことは、『犯人は○○○○○○』だった、でしょう。

座卓を並べ、白井さんを上座にして読書会がスタート。
今回ホストが『東京結合人間』にちなんだお菓子として用意したものは「スティックケーキ」。結合から何か合わさったものが良いかと考えましたが,「スティックパン」が本作の中に出てきたので,わかりやすくインパクトが有り、食すれば結合人間の孤島での日々に思いを馳せるのではないかと考えたのでありました。

続いて自己紹介ということで、名前と共に今年最初に読んだ本を各々が発表。白井さんからは今年最初に読んだ本として飴村行「粘膜黙示録」、昨年の国内ミステリのベストとして門前典之「首無し男と踊る生首」と麻耶雄嵩「あぶない叔父さん」を挙げていただきました。

続いて、皆さんの感想です。
「オネストマンを作り上げたのはが凄い。謎解きも理解しやすかった。」
「刺激が強すぎるので、淡々と読むように心掛けた。二度読むことはないです。」
「とにかく、凄い作品!大絶賛」
「いきなり肛門が出てきたのでどうなる?と思いつつ文章の巧さに読まされた。孤島ものなので全滅するかと思ったがそうではなくて驚いた。」
(彼女も白井さんと昼食を共にしていました。親子丼を食べていたとき同じことを考えていたはず…。まさかストレートに言葉にするとは思いませんでした。閑話休題。)
「結合したら不倫はできない。純粋な世界、理想の世界なのではないか。」
「オネストマンの証明は頭の体操をしているみたいで楽しめた。」
「図書館で仕事をしていて、本作を借りた人が怒って返してきた」
「虫が嫌い!名前を出すのもイヤ(アカゴダニ)。ジョイントマンが最後は出てくると思っていたので出なかったのは残念だった。」
「読んでいる間、翻弄されっぱなしでした。」
「前半と後半に分けてエピローグへと持っていく構成が素晴らしい。真相の推理だけではなく、他の推理も十分に意外な推理で素晴らしい。」

必ずといっていいほど否定的な感想が出る本読書会では、今回の「東京結合人間」も「人間の顔は食べづらい」と同様に参加者全員が絶賛。作者の白井さんが同席した効果ではなく、今回も作品の力であります!!

作者への質問がいくつか挙がったので、それも併せて紹介します。
白井さんは「お手柔らかに。優しい気持ちでお願いします。」と真摯に質問に答えていただきました。

参加者「結合したら住居の間取りはどうなるのか?仕事は男女のどちら側になるのか?」
作者「……そのあたりのことも考えてはいましたが、書きだしたらすごい分量になりそうなので、スパッとやめました」

参加者「メイントリックが最初にあったアイデアだったのでしょうか?」
作者「オネストマンの証明が最初にあって、そこから結合人間とメイントリックが生まれました。」

参加者「エピローグの動機は復讐ととらえたのですが、どうなのでしょうか?」
作者「…復讐ではありますが、理屈では説明できない、無邪気な悪意のようなものだと思います」

(あれ、レコーダーで録音していたのでは?と思われた参加者の方は、もう真相を見抜いていますよね。ゲストの白井さんには本当に申し訳ありません。そして、読書会に参加された皆様本当に申し訳ありません。ホストからの謝罪でした。)

その後、好きなキャラクターと台詞では、
「ハチャメチャだけど三人組が好き。」
「栞の『~の気持ちです。』という言葉遣いが好き。」
「みんな一癖も二癖もあるのに、好感が持てる。好きなもので繋がっているって、救われます。」
「正直な言葉で発している台詞に好感。」
「こわいものからは、逃げろ!は真理を語っていて好きです。」
「常識的な人は小奈川だけですから。やっぱり好感が持てます。」
「イニシアチブをとってくれる今井がかっこよかった」
と、ホストが思っていたよりも、極悪非道な人物たちにも好印象の結果となりました。

最後に白井さんから本作についての思いや執筆秘話、ランキングした際の裏話などを聞きましたが、オフレコということで、今回も前作同様、参加された方だけの秘密です。
最後にサイン会と称して、参加者全員が課題本や色紙にサインをいただいて終了となりました。

読書会終了後は、50mほど場所を移動して懇親会へ。
懇親会には10人が参加し、あまり広くない店で、和気あいあいとお酒を飲みつつ、更に突っ込んだ質問やミステリだけではなく、映画や漫画、各自が今読んでいる本などで会話に花が咲きました。
白井さんの「横溝ベスト3」「カーベスト3」を訊き、答えていただくと参加者が狂喜乱舞!メモをとり始める場面もありました。
本読書会、世話人の蒔野さんも2次会から合流して、参加人数最多の9名でスタート。そして夜は更けていったのでした。
2次会会場のラストオーダーが言い渡されたのは深夜1:00過ぎ。18:00から懇親会が始まり、時間を忘れて話し込んでいました。お酒を召して深夜まで付き合わされても、白井さんは好青年のまま静かに微笑んでおりました。

白井さんの次回作に期待して、本日の読書会は閉会となりました。
白井さんは現在、シリーズ第三の長編を執筆中とのことです。

———————————————————–

さて、月替わりで、国内ミステリーと翻訳ミステリーを交互に課題本に掲げている当読書会。
次回は、カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』を4月16日に予定しています。

[Top]

21st Report

第21回 せんだい探偵小説お茶会主催

エラリー・クイーン『エジプト十字架の秘密』

読書会レポート

執筆者:仙台のクイーンファン

【第一幕】
せんだい探偵小説お茶会が3年目に入り、ホスト制で進められるようになってから、エラリー・クイーン作品の読書会が年1回の恒例行事となるのではないか、とホストが北叟笑みながら企画した『エジプト十字架の秘密』(角川文庫、訳 越前敏弥・佐藤桂)。
クイーンと仙台は相性が良いのか、前回の〈レーン四部作読書会〉に来仙していただいた翻訳者の越前敏弥先生、そして、せんだい探偵小説お茶会を主催し『人間の顔は食べづらい』で作家デビューされた白井智之先生、と豪華なゲストを2人も迎えて開催されました。

越前先生から来仙の際に観光をとのご要望から、白井先生もご一緒されることになり、「るーぷる仙台(仙台市の観光用レトロスタイルバス)で巡る青葉城址」も開催されました。
仙台在住の参加者の多くが「初めて、るーぷる仙台に乗ります」と呟きながらはじまったときには、あいにくの雨でしたが、青葉城址に着くと雨は止み、ミステリアスな曇天の下を和気藹々と巡りました。大広間跡を歩いた際には、「首実検の間」を見つけ、本日の読書会と関連するのではと、参加者からミステリ愛に満ちた言葉が発せられていました(通りがかった方には不謹慎と思われた方もいるかもしれません……。ホストは、作品との巡り合わせに暗号が隠されている錯覚に陥り、1人興奮していました)。
伊達武将隊の方をチラリチラリと見ながら正宗像の前で集合記念写真を撮影。仙台在住の方々は口々に「こんなところあったかしら?」と初めて来たようなことを語り、読書会の企画に観光を取り入れてくださった越前先生に感謝していました。
青葉城址本丸にある宮城縣護國神社に足を踏み入れると多くの絵馬が視界に飛び込んできました。「嵐のコンサートに行けますように」と書かれた絵馬が多くを占めており、嵐人気の高さに驚きました。

また、るーぷる仙台に乗車し、昼食を得るために仙台駅へ。世話人の御用達のお店で、それぞれがランチに舌鼓を打ち談笑。午後三時を回った後、駅前ビル「AER」展望台で仙台を一望。そして、読書会会場へとそれぞれが向かう形となりました。
ホストは読書会下準備のため、食後皆から離れ、読書会開催20分前に会場入ると、参加者の多くが、水を打ったような静けさの中、資料を黙読。その中に空調のためか、人の寝息のような音が。ホストはアンケートの協力を求めて参加者に用紙を配り着席。会の進め方をあれこれと黙考していると、常連会員にして重鎮のT氏が入室。席について目礼を交わし、視線を外すと「びっくりした!」とのT氏の驚愕。なんと越前先生が座卓の脇で眠っていらっしゃるではありませんか。寝息のような音の正体は、越前先生のまさに寝息だったのです。参加者の方々が水を打ったように静かだった理由がここではっきりしました。お疲れのところ、身体に鞭打って参加してくださった越前先生のクイーン愛に、ホストは感動で目頭が熱くなりました(寝息の正体に気付かなかったくせに、とは言わないでください)。

【第二幕】
※『エジプト十字架の秘密』のネタバレあり。未読の方は絶対ここから下、第二幕の終わりまでは読まないでください。後悔します。

『エジプト十字架の秘密』(以後、『エジプト』で表記)読書会は全14名でスタートしました。
『フランス白粉の秘密』〈レーン四部作〉の読書会では作品にちなんだ「菓子」を提供してきたので、今回も『エジプト』にちなんだものをと考えました。そこで参加された方々に「今回、供される食べ物は?」と出題しましたが、惜しくも正解者はなし。今回の供物は(クイーン読書会で出される食べ物のことを今後は「供物」と称させていただきます)、「キャビア」でした。しかし、今の時期、本物のキャビアは高級百貨店で8,640円と高額で、ホストの財布を逆さにしても購入できる代物ではありませんでした。そこで、キャビアの代用物「ランプフィッシュキャビア」(ちなみに1/15の金額です)を提供。「本物と比べてみて、どうですかね?」などとホストが問うと、13名の参加者の口からは「比較できるほど食べて味を覚えているわけではないから、なんとも言えない」とか「偽物と言わずに出せばわからなかったかも」などの回答が返ってきました。その時は、成程と思っていましたが、今この報告書をまとめていると、代用キャビアであることを言わずに、読書会終盤で今回の『エジプト』のトリックに絡めて「本物と偽物を入れ替えた」と語れたらどんなに盛り上がっただろう、と後悔してなりません。そうすれば、また違った印象で読書会を終えることができたように思えます。

閑話休題。
さて、自己紹介を終えて読書会は本書の内容へと。初読の方は5名、その内で犯人がわかった方は0、その中でヨードチンキの瓶の手掛かりの違和感に気づいたが推理に至らずという方が1名(ここで皆のどよめきが……)であることがわかりました。6割の方も初読の際は犯人がわからなかったようです。再読率の高さから『エジプト』が名作との呼び名が高いことを改めて知る思いがしました。

「感心(感想)、疑問、手掛かりについて」をキーワードに参加者の方々からそれぞれお話をうかがうと、「首なしはインパクトあり」「残忍なのに怖さをあまり感じない」「たたんでいくようなプロット」「エラリーが粋がって、タウ十字架といったのに、ぺしゃんこになるのがかわいい」「初読でしたが、さくさく読めて楽しめた。せっかくだから犯人を当てたいと思い、また最初から読んだ」「ヨードチンキからの推理は脳天に雷を受けたような衝撃」「ヨードチンキの瓶の説明を読んだときには、なるほど、これかと思った」などの好印象や感心を得た感想が多く発せられました。
白井先生からは「あかね書房のジュブナイルを小6で読んで、世の中にこんな面白いものがあるのかと思った。大学時代に何度か読んで感銘を受けた。テンポよく途中途中に推理が入っていることも良い。入れ替わりはベタであると思うが、ヨードチンキの瓶に入る前に最初の事件で入れ替わりを明かしている、メイントリックが提示されている潔さに、素晴らしさを感じました。好きな作品です」とクイーンファンを喜ばせる賛辞をいただきました。

読書会の花といってよい「疑問点」については、「『フランス白粉』では調べていた指紋と血液型を調べないのは、どうしてか?」「斧の指紋は調べているのに、指紋について触れられていない部分が多いのは何故か?」「すり替えがよくバレないな」というご意見が多く出されました。ホストである私も、そこには物語を成立させるための作者の恣意を感じずにはいられません。

そして、ここで皆が絶賛していた手掛かり「ヨードチンキの瓶」、そこからはじまる推理に対して疑問を感じると、T氏からお話がありました。
「初読時には大変感心したが、再読してヨードチンキの瓶からなる推理は粗雑に思えた。それは、ラベルがないから使ったのはその家の者だという考えだけで、他の可能性を考えていない」

ここで会場に激震が走り、ホストの脳内にはドーパミンが勢いよく回りはじめました。
「ヨードチンキの瓶がラベルありと無しのものが見つかる。山小屋暮らしなのに、どうしてそんなにヨードチンキばかり集めたのか。仮住まいの山小屋に薬品棚があること。それらの不自然さから、なにかのためにこしらえられた手掛かりじゃないか。例えば、家の他の者が偽の手掛かりを提示して誤った推理をエラリィに導かせる可能性も考えられる(ホスト注:クイーンの偽の手掛かりは他の作品でも見られます)。人1人を殺人罪で起訴する論証としては不十分じゃないか」というものでした。

T氏の意見に「詰め替え用の大瓶と小瓶ではなかったか」と越前先生が答えました。「山小屋の最初の場面では薬品棚のことは書かれているが、そこにヨードチンキの瓶にたいする何らかの説明がうまく入ればよかったのかもしれない」とホストは思いつつも言わず、疑問はそのまま残る形に。
T氏は、アントニイ・バークリーの名著『毒入りチョコレート事件』からチタウィック氏の「その種の本の中では、与えられたある事実からは単一の推論しか許されないらしく、しかも必ずそれが正しい推論であることになっている場合がしばしばです。作者のひいきの探偵以外は、誰も推論を引き出すことができなくて、しかもその探偵の引き出す推論は(それも残念ながら、探偵が推論を引き出せるようになっているごく少数の作品でのことですが)いつも正解に決まっています」(創元推理文庫版p.272)を用いて推理の厳密性を欠くことを話されました。

T氏が「他にもお話ししたいことはありますが、時間もないから」と終えようとすると、越前先生をはじめ他の会員の方から「もう1つだけでも」と要望が入りました。T氏は要望に応えて「パイプが被害者のものではなく、兄のものであることを周りの者が誰も知らないという前提で犯人が利用したことに疑問を感じる。被害者の書いた覚え書きは、兄が航海からもどったら発見してほしいからしたことだが、確実性がない。それだったら兄が帰ってきたら、犯人がその覚え書きを誰かに送りつけた方がよほど確実性がある。つまり何故このような推理が入るかというと、作者がエラリーの推理の見せ場を作るために行ったということではないか」とお話しされました。ホストも、犯人はパイプがケースから兄のものであることを知り、それを利用したが、利用するための前提条件である「周りの者が兄のパイプであることを知らない」ということを、どうやって知ったのかは疑問に思っていました。そして越前先生もパイプについては同じ意見を持っていました。

越前先生からは「鮮やかで、複雑なトリックを作るために多少の強引なことをしている。それはクイーン作品全体に言えることではないか。真相がわかって再読すると作者の立場にたって推理する感じになり、決まって粗が多く見える。それでも初読で騙されれば良いと思う。『エジプト』は派手で物語がダイナミックなので最初に読むクイーン作品としては最適」と話されました。また「ヨードチンキの瓶は初読の時に実は気づいた。どうして気づいたかというと、エジプトを読む前に、ヨードチンキの瓶という言葉があまりに有名で、これはなにかあると思って、ヨードチンキの瓶に注目して読んだからわかった。つまり、手掛かりが有名になることで、その言葉が一人歩きし、ネタバレになってしまうこともあると思われる。今後、そういったことをどう回避することができるかも考えていかなくてはならないと思った」と語り、「1932年の作品群の中でも最後の『エジプト』では苦し紛れの部分が多く見られた。入れ換えを隠すためにペダントリーを交えておどろおどろしさを演出しているが、再読ではミスリードするためであることが、あまりうまく噛み合っていない様子が見られる」とお話を締めくくりました。

ホストは資料に提示した絶賛の意を示していましたが、読書会前日、5回目を読了した際、パイプはもちろんでしたが、「ラベルのない瓶を使用する可能性は、他にもある」「死体の見立てに対する労力と手順、最後の被害者の監禁、もしくは拘束時になにも起こらなかったこと」「指紋や血液の捜査、その他諸々が読者をミスリードさせるために恣意的に隠され、ミスリードさせるためのレッドヘリング情報が全面に出ている」などの疑問が沸々と湧いてきました。読書会前半で「ヤードリー教授が犯人と思った」という意見が何人かから出てきましたが、推理の粗が見えてくると、あながち彼が真犯人ではないと証明することが難しくなってくるようにさえ思われました。

【第三幕】
好きなキャラクターの1位は「ヤードリー教授」、2位が「エラリー」、少数意見で「ルーデン巡査」「アイシャムとヴォーン」となりました。「エラリーは好きになれない」という意見が出ると、越前先生は「今回の新訳では、特に生意気に嫌われるように訳した」とお話しされました。また、好きなキャラクターについては「どの作品でも同じことを言っているが、これだけのことをできる犯人の凄さにいつも感心してしまうので、好きなキャラクターは犯人」と答えられました。
「ヤードリー教授は物語の中で醜男とかバカにされているシーンが多々あることが疑問」と何人かの方からお話がありました。たしかに、読書会では人気が高いのに不思議です。もしかすると物語が作られた時代、流行していた揶揄か冗談だったのかもしれません。

さて、続いて好きな場面については、1位が「追跡シーン」で白井先生からは「今までこのシーンが印象に残っていなかったのが、今回読んでいて、単純に犯人を追いかけるのではなく、ヤードリー、エラリーが連なって、書き置きを手掛かりに追跡して行く様子に面白さを感じた」とお話をいただきました。他には「ヤードリーがエラリーにコートを着せている。イチャイチャしているように見える」「2人のやり取りが好き」などもありました。少数意見では「ルーデンがエラリーからお金をもらって去っていくシーン」「エラリーの最後の台詞」「アイシャムとヴォーン他、釣りにいってしまって警察がいないなど、警察の情けない場面」「ヤードリーとエラリーのディスカッション」「デニムの男が、おいかけっこしているのか、と話す場面」「ヤードリーとエラリーのプールでの会話」等があげられました。

時間の余ったところで、皆の要望から、T氏の話の続きを聞くことができました。
「プロットの甘さから細かい瑕疵がいくつも見られる。例えば、クロサックの居場所を何らかの方法で知るとか。ヤードリー教授が足を引きずる男を見かけた情報をどうやって得たのか。トバル三兄弟は殺人犯なのに、その国の警察から追われていないのは何故か。死体を磔ることは客観的に犯行可能なのか(最初の3つの見立てどの場面でも)。その磔る際に目撃者が現れないのはなぜか。クリングはどうやって生きていたのか。無駄なレッドへリングを削れば、もっと本の厚さを薄くできたのではないか。
こういうミステリの読み方としては邪道な読み方だと思っているけれど……。昔は基本的に騙されたいと思って読んでいたが、年を経てきたら、騙されまいぞ、と思うようになり、小さなことが気になってしまった」
そのお話を聞いて越前先生から「普通できないと思えるようなことをできちゃう超人だから犯人が好きなんだ。『エジプト』はトリックが大きく、死体も多く出るからこそ、粗が多く見られたのだではないか」と締め括りの言葉が述べられました。

最後に、福島読書会のS氏が作った白井先生の新刊告知と『エジプト』読書会のお知らせを併せたリーフレットをもとに、白井先生がお話をされました。
「自作でも傍点はをつけまくりました」と白井先生がおっしゃられると越前先生から「それはクイーンが原体験にあるからですか」と質問があり、白井先生は「そうです」と頷いていらっしゃいました。
2時間に達したところで読書会は終了となりました。ホストとしては大変濃密で充実した時間を過ごすことができました。それは参加された皆さんが単に「名作」と語ってくれたからではなく、今回再読して、自分が薄々感じていた違和感を無意識のうちに認めないようにしていたことがはっきりと浮き彫りにできたからです。おかげで肯定と否定の狭間にフィルターをかけてぼんやりとしてした状況から昇華して抜け出ることができました。そして「こんなにも瑕疵がある作品なのに、私はこの作品を愛して止まない」と、はっきり思うこともできました。また、何故この作品を愛しているのかと問われれば、「語られる論理が、現実で通用しそうだから。(通用しないとわかっても)魅力を感じる」というところのような気がします。
ミステリについては上記の言葉だけでは言い表すことができないと思っています。それを知りたいからこそ、これからも読書会に参加しながらじっくりと考えていきたいと思います。
懇親会には越前敏弥先生と白井智之先生にも参加していただき、美味しくビールを飲むことができました。そして、その場でもミステリの話題ばかりで、とにかく最高でした。

越前敏弥先生と白井智之先生をはじめ、読書会に参加してくださった皆さん。本当にありがとうございました。

【終幕】ボーナストラック
今回、読書会でアンケートにご協力していただき、結果は以下のようになりました。

プロット サスペンス 解決 文章 論理性 感動・余韻
飯城勇三氏 10 10 10
参加者1
参加者2 10 10
参加者3
参加者4
参加者5
参加者6 10
参加者7
参加者8
参加者9 10
参加者10 10 10 10 10
ホスト 10 10 10 10 10 10
平均点 8.5 7.5 8.7 7.7 8.8 7.0

全項目の平均が7点以上を示していること、全項目を合わせた平均は8点を超えていることから、読書会に参加された方々は瑕疵が多く見られても、読み応えありの作品と受け取ってくれたと思われます(ホストの点数が高すぎる、と突っ込みが入りそうですが、そこはご了承ください)。
読書会後の回収でしたが、論理性や解決の点数が辛くならなかったのは、クイーンの底力でしょうか。

今回のアンケートにはエラリー・クイーン・ファンクラブ(EQFC)の飯城勇三氏にもお忙しい中にもかかわらず回答をいただきました。表の上段がその回答です。重複しますが下にメールでいただいた内容を表示します。

01.『エジプト十字架の秘密』を読んだ感想
角川文庫版の解説のために読み直したが、犯人の行動の必然性が、本物と偽物の両方用意してあるのが凄い。
02.『エジプト十字架の秘密』を以下の点から評価してください(各項目10点満点。10点の基準はこれまで読んで来たミステリ作品で、10点と思えるものと比較して点数をつけてください)。
プロット=10、サスペンス=9、解決=10、文章=8、パズル性(論理性)=10、感動・余韻=9
03.あなたがもっとも好きなキャラクターと場面と台詞
キャラ:エラリー
場面:解決篇全部
台詞:解決篇のエラリーのセリフ全部
04.作中に登場する手掛かり(ヨードチンキの瓶・パイプ)についてどう思いますか。
興味あり。
いずれEQFC会誌に評論を書きます。

最後の言葉には、胸が熱くなります。評論を目にするのが楽しみでなりません。
今回の読書会でも、ホスト自身はミステリの深淵を垣間見て、それに触れることができたと思います。
そして、自身がミステリを知っていくためにも、クイーン作品を介した読書会を、まだまだ続けなくてはならないと考えています。そう決心したところで、今回は閉幕(カーテンフォール)とさせていただきます。

 

———————————————————–

さて、月替わりで、国内ミステリーと翻訳ミステリーを交互に課題本に掲げている当読書会。
次回は、伊坂幸太郎『マリアビートル』を11月21日に予定しています。

[Top]

20th Report

第20回 せんだい探偵小説お茶会主催

泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』

読書会レポート

執筆者:73番目の密室

時に西暦2015年7月26日-陽射しは獰猛で、焦熱は極まり、街路には陽炎が揺蕩う盛夏の1日。杜の都の一角に鎮座する戦災復興記念館5階の和室に於いて、第20回せんだい探偵小説お茶会が開催されました。参加人数は11名、うち初参加の方が1名。全員が定刻までに到着してくださいました。おかき、大福、薄皮饅頭等のメンバーが持ち寄ったお菓子も各人に行き渡り、直前に手洗いに立ったホストが戻ってくるのを待って(どうもすみませんでした…)15時30分やや過ぎ、和やかなムードで読書会が幕を開けます。

課題書は『亜愛一郎の狼狽』。海外のブラウン神父シリーズと比肩される奇想と逆説と諧謔に満ちた“亜愛一郎シリーズ”の劈頭を飾る短編集。紋章上絵師、アマチュアマジシャンの顔も持つ多芸のミステリ作家泡坂妻夫の代表作として、今尚多くの人に愛されている1冊です。かく言う筆者も本書の熱狂的なファン、未だこれ以上の光彩を放つミステリ短編集にはお目にかかったことがありません(個人の感想です)。

皆様の自己紹介が済むと、いよいよ議題は本の感想へ。本読書会の傾向として以前から「ミステリを読む際にはストーリー性を重視する」という意見の方が多く、本作のような仕掛けに重点を置いた作品は酷評されるのでは…と始まる前には憂慮していたのですが、皆様の声を伺ったところ豈図らんや!殆どの方から好評をいただき、中には「続きを読んでみたい」と仰ってくれる方もおられ、私の杞憂を跡形もなく吹き飛ばしてくれました。ホストとして1ファンとして、実に嬉しい誤算でした。半数以上の方が今回初読ということにも関わらずとても好意的に受け止めていただき、心から『亜愛一郎の狼狽』を課題本に選んでよかった!と思えました。一方で「内容が腑に落ちなかった」「読みにくかった」という声も上がり、やはりアクの強さが人を選ぶ作品であることも確かなようです。また「登場人物の名前が印象的」「亜に相棒がいないのが残念」「“三角形の顔をした洋装の老婦人”が気になる」などの感想をいただきました。最後のご意見に関しては、是非続編を読んでいただきたく…(にやりと口元を歪めながら)

尚この感想を述べる際、亜シリーズを1作目の『DL2号機事件』が雑誌幻影城に掲載された時から読んでいたと仰るTさんが徐にバッグを開き、幻影城ノベルス版、角川単行本版、角川文庫版の『亜愛一郎の狼狽』、そして何と『DL2号機事件』掲載号の幻影城までをも取り出し、メンバーに回覧してくれました。思わぬサプライズに会場がどよめきます。グレイト、それってもう国宝級の代物じゃないですか!?もちろん私も狂喜し、自分のところまで回ってくると喉から手が出そうになるのを必死に抑えつつ(く、静まれ…!)、夢中になって見入りました。その間ホストの役目はそっちのけです。おい、司会しろよ。
ちなみに『狼狽』は上記3種の他に創元推理文庫版からも刊行されており、現在ではそれが唯一版を重ねている形態です。こちらの表紙は2種類あり、参加メンバーの多くは現在流通している表紙の版をもってこられたのですが、偶々私が持っていたのはそれ以前の表紙の版でした。つまり上記3種と合わせ、この日の会場には日本で刊行された『亜愛一郎の狼狽』の全ての表紙が期せずして集結したこととなります。

その後は著者のプロフィールなどを追っていき、一段落したところでメンバーに「収録作中でどの短編が一番好きだったか」という質問に答えていただきました。この結果、最も好評を博したのは『掌上の黄金仮面』。物語上で展開される情景の映像的なインパクトと、真相の逆説の巧みさが多くの人の心を捉えたようです。その他にも『掘出された童話』、『ホロボの神』といった作品も人気でした(『掘出された童話』は賛否がわかれました)。逆に『曲がった部屋』に関しては「作中に出てくるシデムシが気持ち悪い」という意見が主に女性陣から強く、やや敬遠されがちでした(苦笑)。尤も、「シデムシが苦手なだけでトリック等は好き」という声も多数聞こえてきました。他には「『G線上の鼬』は情景がイメージしにくい」という意見も。
またこのアンケートの際、今回の読書会を所用により欠席された仙台のクイーンファンさん(これまでの読書会では皆勤賞を達成されておられました。凄い!)がメールで送っていただいた感想が世話人のMさんにより発表されました。その中でクイーンファンさんは『ホロボの神』を作中1位に挙げ、また『DL2号機事件』についても激賞しておられました。クイーンファンさん、玉稿ありがとうございました。

その後レジュメに乗せた2,3の四方山話を経て雑談へ移ります。「亜愛一郎シリーズやブラウン神父シリーズのような面白さを持つ作品は他にありませんか?」という問いかけには、百戦錬磨の読書歴を誇る本読書会メンバーも中々答えられず。それほど本作含む亜シリーズやブラウン神父譚が、独創性に富んだ稀有な作風であるということなのでしょう。近年「泡坂妻夫の影響を受けた作家」としてしばしば米澤穂信が紹介されていることから、(主に米澤シンパであるホストの強引な先導により)同著者の『満願』『儚い羊たちの祝宴』『追想五断章』などの名も挙がりましたが、やはりこれらも“?”マークの浮遊する回答となりました。泡坂妻夫の奇想と諧謔を受け継ぐ作家が、一日も早く登場することを願って止みません。

そのような話に華を咲かせているうちに終了時間の17時半を迎え、今回の読書会も無事閉幕となりました。参加していただいた皆様、どうもありがとうございました。亜愛一郎の話を2時間思いっきりすることができ、ホストとしては至福至上の時間を過ごすことができました。他の方々にとってもそうであったなら、これ以上の喜びはありません。
———————————————————–

さて、月替わりで、国内ミステリーと翻訳ミステリーを交互に課題本に掲げている当読書会。
次回は、エラリー・クイーン『エジプト十字架の秘密』(角川書店 越前敏也訳)を9月26日に予定しています。
詳細は近日HPにて公開予定です。

[Top]

18th Report

第18回 せんだい探偵小説お茶会主催

皆川博子『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』

読書会レポート

執筆者:マダム・リー

 定禅寺通の欅並木が日に日に色を深める、仙台が一番美しくなる時期の日曜日の午後。第18回せんだい探偵小説お茶会が開催されました。商業ビルの上階に上り、ぐるりと廊下を進んだ奥の和室に集まった参加者は10名。今回初参加の方はいらっしゃいませんが、初顔合わせはあり。みなさまに持ち寄っていただいたお菓子を並べて(開いて、開いて開いてお菓子本体が登場するネタ仕込みあり、課題書にちなんだもの・課題書とは関係ないものあり)和やかな開始前のひとときです。

課題書は皆川博子氏の『開かせていただき光栄です−DILATED TO MEET YOU−』。第12回の本格ミステリ大賞受賞作です。著者の皆川氏は、誠に多岐に渡り精力的にご執筆なさっておられる方。でも、実は初読!何故か手にしていなかった!という声が多数。課題書でなければ絶対に読むことがなかった、という方もいらして、嬉しくなりました。狙い通りです、ふふふ。なんとなく後回しにしていた、一読歓喜して著者の経歴を見たら年齢に驚愕!との声も。『死の泉』とはまた違って明るく読みやすい、細部まで練って作られている、などの感想も聞かれました。

読んでみていかがでしたか?と伺ってみると、まず名前が覚えられない!との声が複数。翻訳物はそれが理由で敬遠しがちなので、今回は日本の作家さんだからよし、と思って読んでみたらなんとなんと…!と嘆かれた方もいらして、いやほんとすみませんでした。かく言うホストも、実は本書は過去一度挫折。いきなり通称で骨皮(スキニー)・アル、とか言われてもうなんか苦手かも、と思ったから。容姿端麗とか天才画家とか、あんまりよく知らないけど『ポーの一族』っぽいイメージでした。

その『ポーの一族』を連想された方、他にもいらっしゃいました。うまく入り込めなかったけれど、そのイメージを借りてのめり込めた。あるいはそのイメージでますます苦手な感じになり苦労した、男同士の距離感がおかしい=近すぎる、などなど。バートンズのパートはなんだか今ひとつだったけれど、詩人志望のネイサン少年が登場してから共感して読み進められるようになったとのお話しもありました。

さて、舞台は18世紀末のロンドン。猥雑さと熱気が入り交じるその時代の街の様子は、ライトな読み味の本書からはあまり感じられないとのご意見が複数。時代考証に散見される齟齬はともかく(しっかりと例示してご説明いただきました。いつも本当にありがとうございます)、箱庭的な描写にとどまっているのは意図的なのか否か。時代ミステリなのだけれど、登場人物の行動や発言は現代的で時代性が感じられない。気になるネタや人物が満載なのだけれど、すっきり読める反面、もうひとつ食い足りない感じがするといった発言がたくさん出てきて、改めて気づくことや考えてみたいことがどんどん増えました。

本書は続編『アルモニカ・ディアボリカ』もハヤカワ・ミステリワールドから刊行されています。どんな続編になっているの?あの人出てくるのかな?気になる展開ですが、もう何を言ってもネタバレになってしまうので、興味のある方はぜひ!というところでお開きに。展開予想が見事にはずれていましたとの発言や、自身が読んでいる本たちがリンクしていくことにも夢中になってしまう、こんな本とも共通する点があるよ、などなど、今回も興味深いお話を沢山伺うことができました。お会いできた皆様と、これからお会いする皆様のミステリ愛に乾杯。また読みたい本が増えたので、せっせと読んでいきたいと思います。本当にありがとうございました。

———————————————————–

ちなみに、福島読書会の世話人から焚き付けられ、作品にちなんだお土産を、ということで仙台の世話人が用意したのものは『外郎(ういろう)』でした。
作品中で、墓暴きに対して「この、下郎(げろう)が」というような台詞があったと記憶していて、その下郎にかけて、外郎を用意してみました。(ちなみに、そんな台詞が果たしてあったかどうかは確認していません!)
お後がよろしいようで。

さて、月替わりで、国内ミステリーと翻訳ミステリーを交互に課題本に掲げている当読書会。
次回は、ドン・ウィンズロウ『ストリート・キッズ』を6月14日に予定しています。
詳細は近日HPにて公開予定です。

[Top]

17th Report

第17回 せんだい探偵小説お茶会主催

(翻訳ミステリー大賞シンジケート後援)

ガストン・ルルー「黄色い部屋の謎(秘密)」読書会レポート

執筆者:暮尾

せんだい探偵小説お茶会は、2月22日 に、第17回となる読書会を開催しました。

対 象書籍には、約百年前のフランスの新聞上で連載、刊行され、今も多くのミステリ読者、特に密室マニアには必読とも思えるガストン・ルルー の「黄色い部屋の 謎(秘密)」を選定、お菓子の時間を三十分ほど過ぎた頃に、世話人のM氏の一声で、始まりました(以降、ネタを割っている箇所が一部ある ため、「黄色い部 屋」未読の方は、ご注意ください)。

自 己紹介を済ませる一同。「黄色い部屋」の続編にあたる「黒衣婦人の香り」は、出版社さんで取り扱われていないことを理由に、今回は課題書 籍から除外してい たのですが、事前に読んでこられた方が多く、また、インターネットを通じて購入を計画している方もいらっしゃり、参加者の、ミステリへの 情熱を感じまし た。
ホストを務めたわたし、M氏、福島から参 加され、三年前の東西ミステリーベスト100海外編で、「黄色い部屋」を一位に投票されたS氏が持参したお菓子の紹介も終わり、読書会の 本題となる、自由に感想を伝えていただく時間へ。
初めて読んだ大人向けミステリ、海外作品 という思い出深い声もあれば、読了まで時間を費やした、内容が頭に入ってこなかったという声も。かくいうホストの自分も、初読時は、すん なり進まなかったというのが、正直なところです。
し かしながら、新訳という新たなかたちで、他作家の作品が、世に受け継がれようとされる昨今、「黄色い部屋」の文体は、冗長さは否めないも のの、ルールタ ビーユの持ち出す事実、断定的な台詞、傍点、言い回しといった要素は、再読時には、異なる輝きを放ち、文体のリズムに慣れると、より味わ い深く感じられる ことと思います。
「黄 色い部屋」が翻訳ものであり、また約一世紀前のフランスの小説であるという二点を考慮しない場合、ホストの私見としては、この作品で綴ら れる文章そのもの は、現代の視点で見つめてみると、初読よりも、むしろ再読向きに書かれているように感じてなりません(創元推理文庫版を参考としていま す)。

内容については、物語全体としてのおもし ろさや、その中でも皆さんが印象に残ったシーンを、各自発言され、わたしを含む参加者の、まさに十人十色の感想・批評を聞くことができ、 ホストとしては、まことに楽しく、大いに参考となり、感謝しております。
三つの事件について話が及ぶと、第二の事 件が、三つの中では好きと答えた方が多く、また個人的に、最も関心を寄せていた、 黄色い部屋で起きた密室の解明については、概ね好意的な意見をいただいた反面、スタンガースン嬢の首に残った手形の隠し方や、第二の事件 において、二秒間 で果たして可能なのか等の、現実に即した細部の疑問点について議論がされる中、最終的には、<ラルサンだから>という犯人の万能性を結論 とした後、参加者 の方には、開会後に急遽告知した、「好きである、印象に残っている密室もの」を、各々あげていただきました。この場では、一部抜粋して、 ご紹介したいと思 います。

・エラリー・クイーン「チャイナ橙の謎」
・大阪圭吉「灯台鬼」
・クリスチアナ・ブランド「ジェミニー・ クリケット事件」
・ヴァン・ダイン「カナリヤ殺人事件」
・カーター・ディクスン「ユダの窓」、 ジョン・ディクスン・カー「三つの棺」、「妖魔の森の家」、「白い僧院の殺人」
・島田荘司「斜め屋敷の犯罪」
・泡坂妻夫「ホロボの神」
・デレック・スミス「悪魔を呼び起こせ」
・ジョン・スラデック「見えないグリー ン」
・横溝正史「本陣殺人事件」
・ロナルド・A・ノックス「密室の行者」

最後に、黄という色には込められた意味が あると仮定した上で、ホストなりの考察を発表させていただきました。
意 味の有無は、作者であるガストン・ルルーのみぞ知るというのは先刻承知、サフランという花、サフラン色についての説明から、黄色の心理効 果、参考文献と なった福田邦夫「ミステリーと色彩」の内容をもとに披露したものの、ルールタビーユのような弁舌とはいかず、脆弱な論理であることを、わ たし自身、発言し ながら感じていましたが(笑)、読書会の余興として、参加者の皆さんの心に、少しでも留まれば幸い、というところであります。

最後まで目を通していただき、ありがとう ございました。

———————————————————–

ホストによる「黄色」に対する独自の見解に参加者から感嘆の声があがる中、読書会は幕を閉じ、懇親会へと流れていきました。
懇親会の中でもみなさんのミステリー談義は尽きることを知らず、気づけば帰りの電車の時間が迫っている、というのも既に当読書会の恒例となってしまいました。

さて、月替わりで、国内ミステリーと翻訳ミステリーを交互に課題本に掲げている当読書会。
次回は、皆川博子『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』を4月19日に予定しています。
詳細は近日HPにて公開予定です。

[Top]

16th Report

第16回 せんだい探偵小説お茶会主催

白井智之『人間の顔は食べづらい』読書会レポート

執筆者:蒔野正徳

1月25日に第16回となるせんだい探偵小説お茶会を開催しました。

第1回読書会(当会では、第0回と呼称していますが。)が2013年1月13日に開催されましたが、それから早2年、2年目を迎えることが出来ました。
記念すべき、2周年目の作品として取り上げたのが、当読書会の発起人であり、初代世話人である白井智之さんのデビュー作です。

ミステリーを読むこともされど、新人賞に応募し、将来はミステリー作家に、と考えられている方が、当読書会に何名か所属しておりますが、こんなにも早く当読書会発のミステリー作家が生まれるとは思っておりませんでした。

さて、その白井さんのデビュー作ですが、第34回横溝正史ミステリー大賞の最終選考に残り、「横溝正史ミステリー大賞史上最大の問題作」と評された作品でもあり、賞を与えるかどうか最後まで審査員の間で評価が分かれたようです。
(結局は、賞を逃してしまいましたが。)

というわけで、そんな作品を取り上げた読書会。
どんな問題児が参加するのか?
どんな罵詈雑言が飛び交うのか?
作者を目の前に、こき下ろされてしまうのか?
という不安を世話人は抱きつつ開催されたのでした。

今回は宮城、山形、福島、千葉(作者)の各県から合計12名が集まりました。
内、初参加が2名(1名は福島読書会のメンバー)。

さてさて、メンバーが開場入りしてまず一言。
「何ここ!?」
メンバーがそう言われるのももっとも。
今までは、研修室や和室で開催していた当読書会。
前回、越前先生がいらしたときですら、和室だというのに、今回用意した部屋は特別会議室。
よくTVドラマ等で取締役会が行われるような部屋を想像してもらうとよいかと。
あれよりはちょっとイスの数が少ないぐらいの、あんな感じの部屋です。
前々から一度使ってみたいと思ってた場所で、今回はたまたま予約がとれたので使ってみました。

そんな、重役になった気分でイスにふんぞり返りつつ、読書会が開始されました。

今回も参加者から色々なお土産を頂きました。
福島読書会からは、二本松少年隊士物語「霞の天地」のイラストが入ったお菓子と人間の顔は食べづらいが、ひよこの顔は食べられる、ということで東京銘菓「ひよこ」を頂きました。
対して、世話人が用意したのが「グミマロ」。マシュマロをグミでコーティングしたお菓子で、課題図書中に出てくるクローン人間の脂肪に近い感触を味わえるのではないかと。

続いて自己紹介ということで、各々の好きな小説・作家を述べてもらうとともに、今回の課題図書にあやかって、「人間の顔は食べづらい、ということなので、食べづらい部位・食べてみたい部位」を挙げてもらいました。
「食べづらい部位は特になし。特に食べたい部位もない」
「お尻かなあ」
「今日は体調的に食べたくない。普段だったら・・・どこでも?」
「女性のいる前では言いにくいが・・・女体!」
「レバー」
「人は食えないな、と。」(一筋縄ではいかない、という意味で)
「太ももなんて、おいしそうかな」
「舌(タン)」
「どんな動物もホルモンはおいしいので、人間のホルモンもおいしいのでは」
「ほっぺたの肉が柔らかく食べてみたいかも」
「ハンニバルから脳みそなんてどうでしょう」
「腕の肉」
・・・全員のアンケート結果を見ると全身の部位がくまなく網羅されてるようで、このメンバーであれば部位を取り合うこともなく、平らげることも出来てしまうようです。
まあ・・・食べませんけどね!
しかし、課題図書中では、捨てられる部位である頭部の部位を選択した方が3名もいました。動機として頭が食べてみたかったから、というのも実は有力な候補だったのでは?

続いて、皆さんの感想です。
「好きな作品。最後のエピローグはニヤニヤしながら某喫茶店で読んでいたので、周囲の人に変な人とみられたのでは。。。」
「ダメかも・・・と思いつつ読んでいくうちにはまっていった。チャー坊がお気に入り」
「ミステリーとして面白く読めた」
「すごくトリッキーでSF的な作品。最後の『あ、俺、○○○○っす』的な最後が良かった」
(○○○○ネタバレなため、伏字)
「嫁にも読ませたが、タバコのシーンでピーンときたらしいが、自分は全く気づかず、気持ちよくだまされた。再読した際も、様々な伏線が張り巡らせていることに気付いたが、結局、騙されてしまった」
「最近読んでいる本としてタイトルを友人に告げたところ、引かれた。多重解決の部分が以前の課題本(『毒入りチョコレート事件』)が連想された」
「映画化は不可能な作品」
「多重推理が面白く読めた」
「由島の扱いが良く言えばエキセントリック、悪く言えば雑。推理合戦が面白く読めた。様々な伏線が張り巡らされているが、それを気にせず読ませるリーダビリティの高い作品」
「クローンをこのような使い方をした作品というのは初めてではないかと思う」

いつもは否定的な感想が出るのに、今回に限っては参加者全員が絶賛。
作者が同席した効果か!?
いえいえ、作品が素晴らしいんです!!

と、感想の中で作者への質問がいくつか挙がったので、それも併せて紹介。

参加者「由島 美紀夫は三島 由紀夫のパロディか?だから、ハラワタ?」
作者「以前、別の作品で使用したキャラを使いまわしただけ」

参加者「横溝正史の作品には首なし死体が多く登場するが、それを狙って横溝正史ミステリ大賞に応募したのか?」
作者「特にそういった意識はなかった」

参加者「構想、執筆は2年ほど前とのことだが、その時はIPS細胞が騒がれていた時期だがそういった影響から作品が生まれたのか?」
作者「特に意識したわけではないが、そういったニュースに影響された部分もあるのかも」

参加者「クローンをこういう使い方をするというのは、どうやって生まれたアイディアなのか?」
作者「設定よりもトリックが先にあった。そのトリックを実現する方法を模索していた中でクローンという設定に行き当たった。後は、YouTubeでフォアグラの育て方を見て、これを人間でやったらおもしろいのでは、と考えた」

参加者「人(クローン)を食べる、という所から『人肉饅頭』という作品が思い起こされたが?」
作者「その作品は見たことがない。他の人からはSF映画『ソイレント・グリーン』を見たの?とは言われた」
参加者「藤子・F・不二雄の『ミノタウロスの皿』は?」
作者「それは読んだことがあるので、何らかの影響は受けたかも」

ここで、作者から読者への質問ということで、トリックに気付いた人は?との質問に対しては、11人中5人が途中で気付いたとのことで、約半数が気付いていたよう。
さすがは古今東西のミステリを読み尽くしたミステリ好きが集まる会。
・・・当然の事ながら世話人自身は最後まで気付かず、いつもどおり気持ちよく騙されました。

その後、作者から本作についての執筆秘話や出版に際しての裏話などを聞きましたが、オフレコということで、参加された方だけの秘密です。

最後に作者初のサイン会と称して、参加者全員が課題本にサインをもらって終了となりました。

※出版記念ということで、せんだい探偵小説お茶会からブックカバーをプレゼントさせて頂きました。

読書会終了後は、場所を移動してイタリアンレストラン?での懇親会。
懇親会には10人が参加し、あまり広くない店なので、ほぼ貸切状態。
お酒を飲みつつ、更に突っ込んだ質問をしてみたり、各自が今読んでいる本の紹介や人に勧めたい本(但し、参加者の誰も読んでいない本)を各々言い合ったりして楽しい時間を過ごしました。

白井さんの次回作(現在構想中)に期待して、本日の読書会は閉会となりました。

———————————————————–

月替わりで、国内ミステリーと翻訳ミステリーを交互に課題本に掲げている当読書会。
次回は、2月22日にガストン・ルルー「黄色い部屋の謎(秘密)」予定しています。
皆様の参加をお待ちしております。

[Top]

15th Report

第15回 せんだい探偵小説お茶会主催

(翻訳ミステリー大賞シンジケート後援)

エラリー・クイーン「レーン4部作」

読書会レポート

 

執筆者:仙台のクイーンファン

第一幕
 11月終盤,仙台の泉ヶ岳に初冠雪を迎え,日に日に肌寒さが身に染みる様相を呈してきた読書会当日。穏やかな天候に恵まれた中,せんだい探偵小説お茶会の面々は読書会の前に,昼食会で翻訳者の越前敏弥先生を,仙台の牛タン有名店にお迎しました。
 翻訳界のベェネティクト・カンバーバッチと称される越前先生が,予定の時間に颯爽と登場されると,席に着こうとしていた参加者達は息をのんでその場に立ち止まり,越前先生を凝視するだけでありました。越前先生にお薦めの定食を伝え,各々が注文をしたあとは,越前先生が他県の読書会で印象的だった食事の味や見た目,盛のインパクトについてお話しされました。場も和んできた頃,食事が揃い,参加者の一人が注文した「牛タンづくし定食」を目にした越前先生は,ボーリュームに驚嘆してスマートフォンで撮影。ブログに載せると仰っていました。牛タンの味を堪能した後,越前先生は行きたいラーメン屋があり,読書会と同じようにライフワークとして全県のラーメン屋も回っていて,今日も行きたいとお話しされたので,読書会後のスケジュールについて参加者達は頭を巡らせていました。
 今回の読書会では,越前先生の他14人が仙台,山形,福島,横浜から参加しました。なんと,せんだい探偵小説お茶会始まって以来の大人数となりました。
 最初に,越前先生の翻訳ミステリシンジケート全国大会についての報告とエラリー・クイーン翻訳秘話という豪華すぎる講演会が行われました。今後,他の講演会でもお話しされる内容とのことでしたので,詳しくお知らせすることはできません。少し触れるとすれば,翻訳によって,これまでのレーン四部作に登場する名探偵,ドルリー・レーンの様相が一変したこと。そして,エラリー・クイーンの某作品では真相の解釈が……等々でした。来年には講演会で各地を回られる予定です。詳細を知りたい方や興味のある方は是非,越前先生の講演会へ足を運んでみては如何でしょうか。

第二幕
 読書会,開会前には参加者たちが持ち寄った菓子が出され,その中にはレーン四部作に関係のある「リコリス」菓子が登場。お茶会まとめ役のM氏が作成したレジメには,これまでに出版されたレーン四部作の表紙で悲劇の文字が作られていて,レジメをめくった参加者をニヤリとさせていました。また,BIGボーナスとして,以下のような著名人によるアンケート回答の結果も載せられていました。

有栖川有栖氏の,一番好きなレーン4部作
 以前は「Yの悲劇」でしたが,今では「Xの悲劇」。

有栖川有栖氏夫人の,一番好きなレーン4部作
 「レーン最後の事件」

戸川安宣氏の,一番好きなレーン4部作
 「Xの悲劇」

飯城勇三氏の,一番好きなレーン4部作
 「Xの悲劇」本格ミステリとして,かなり高度なことを,誰にでも解るようにやっているから。

飯城勇三氏の,4部作を読んだ感想
「すごい!」の一言。各作品を単独で読んでもすごいが,通して読むと名探偵の誕生から終焉まで描いていることがわかるのもすごい。

飯城勇三氏の,シリーズを通して,好きなキャラクターと場面
レーン:「Xの悲劇」で変装するシーン。

飯城勇三氏の,4部作を通して好きな台詞
「Xの悲劇」の初登場時の「操る側になってみたい」(P24.13~15)

飯城勇三氏が考える,なぜ4部作なのか?
以前,「本当は3部作だったのを,出版社の要請を受け,エラリーものからプロットを転用して<Zの悲劇>を追加したという説を書いたことがあります。以前,麻耶雄高さんにも,この説に賛同してもらったことがあります。

飯城勇三氏の,作品についての疑問点,知りたい点
自分でいろいろ考えるのが好きなので,知りたい点はありません。でも,現在の新しい読者の感想が知りたいです。

ホストから「Yの悲劇P177をご覧下さい。云々間ぬん…」とリコリス登場シーンについて説明があると,興味深そうな声を漏らしている方もちらほらと上がりました。そして,自己紹介の際に,四部作の中で一番好きな作品も発表,熱く語ってくれました。これまでの読書会参加者の人数が最大でも10人という状況,一作品に対しての語り合いの時間を比較すると,全員が語り終えるまでにこれまでの3~4倍の時間が経過していました。一作品ではないだけに,それぞれの思いも違っていて,興味深く聞くことができました。事前アンケートでの順位は,
 1位 Yの悲劇 4.5票
 1位 Xの悲劇 4.5票
 3位 レーン最後の事件 3票
 4位 Zの悲劇 1票

という結果でしたが,読書会当日には,
 1位 Yの悲劇 5票
 1位 Xの悲劇 4票
 3位 Zの悲劇 3票
 3位 レーン最後の事件 3票

となりました。
 越前先生から「四部作の中から一つを選ぶことに,あまり意味はないと思える。この四作を一つの大河小説としてとらえて欲しい」とお話があり,それぞれが感嘆の声を漏らしていました。因みに越前先生が選ぶとしたら「Zの悲劇」だそうです。読書会開催紹介文でも触れていた「ミレニアム」シリーズの評価からレーン四部作がシリーズ一つとして評価されれば,揺るぎない不動のもの,本格探偵大河小説として燦然と輝く巨星となるのではないか,とホストも熱弁をふるってしまいました。
 参加者からは,それぞれの作品の中に「Yは真犯人がいるのではないか」「Yはクリスティの某作品と似ている」「犬神家の一族はYへのオマージュとして作られたのでは」「探偵がじつは腹黒いのではないか」「Xの犯人が魅力的」「悲劇ではあるが,最後は明るく思えた」等の意見や感想があり,会は熱気を保ったまま,時間が過ぎていきました。参加された方の中には「パズル(本格謎解き小説)が嫌いなのに読書会のために読んでみて,やっぱりパズルは嫌いだと思わされた。そして,Xはパズルのくせに小説を作ろうとしているように思われ,かえってイライラさせられた」という意見もありました。『読書会の面白さは,相反する意見があった時こそ面白く感じられ,深淵を覗く切っ掛けになることがある』と,ここで声を大にして言わせていただきます。反対の価値観や多面的な見方に接した時こそ,カタルシスが生まれ,知的興奮を味わわせてくれると思っています。まさに今回の読書会でもその瞬間が訪れたことに,ホストはミステリの深淵を垣間見る気がしたのでした。読書会に参加される時は,正直な気持ちを語ることが大事なのだと改めて確認しました。
 好きなキャラクターを発表する際には,ドルリー・レーンがダントツかと思われましたが,ペイシェンス・サムに好感が持てるという意見が多く聞こえてきました(けしてホストの「Zの悲劇」贔屓ではありません)。「はつらつとしていて良い」「自分の考えをしっかりと持って意見してくれそう。以前だったら嫌いなタイプだったが,自分が中間管理職になってからはペイシェンスのような部下だと嬉しく思えるようになった」など。レーンであれば「彼なしでは,この四部作は語れない」「探偵であり,事件を神のごとき操る真犯人,暗躍説として読むこともできる」との意見がありました。Yの悲劇のルイーザという意見や,Xの悲劇に出てきたピンカッソンという登場人物表に出てこないレアなキャラクターについても好感を持てたというお話がありました。
 好きな台詞では,参加者それぞれのセンスを感じさせる意見が出てきました。「アメリカの言葉を話しなさい」「ドルリア・レーン」「長年にわたって練りに練った複雑な犯罪計画を,大胆勝つ独創的な,ほとんど非の打ち所のない手際で果たす非凡な犯罪者」「行こう,警視。レーンさんはお疲れだ。そろそろニューヨークへ戻った方がいい」「お気持ちはよくわかりますよセドラーさん」「どうでしょう,お役に立ちましたか。お役に立ちたいのです。どうしてもお役に立ちたい。どうですかお役に立ちましたか」「操る側に立ってみたい」等。その中でもメールのみでアンケートに参加された方の意見,講談社文庫版,平井呈一訳の「Yの悲劇」でレーンが歌舞伎役者風に訳された台詞「やつがれ,いまだ芸未熟にして汗顔至極」が皆にどよめきを起こしていました。また,訳者の数がこれほど多いシリーズも珍しいことがわかりました。
 好きな場面では「サムが娘の扱いに困惑する場面」「Xのラスト一行」「最後の事件でペイシェンスが覆面男に拳銃でおそわれるシーン」「ペイシェンスが地方検事に推理を証明できると話しているシーン」「最後の事件でペイシェンスが異性に好意を抱くところ」「ほぼ全裸で日光浴するところ」「クマの毛皮に寝そべっているシーン」「Yの解決編」「Zの解決編」「X冒頭の読者への公開状」「最後の事件,犯人を明かす場面」等でした。やはり解決編の意見が多かったのはミステリとしての精度の高さからだと思われました。(「Xのラスト一行」という意見が「Xの解決編」とホストは解釈しました。)

第三幕
 なぜ四部作だったのか? という参加者への問いかけに対してホストは「クイーンが最初からその計画で作ったのではないか」とお話ししたところ,異論有り,とT氏から意見が出てきました。その意見とは「S・S・ヴァン・ダインが1928~1930年の間にレーン四部作で行おうとしていたことを自作の6作目までに行うと,20回は言っていたことが評伝に書かれていることから,ヴァン・ダインから影響を受けて意識していたクイーンは,そのことを,はじめはするつもりはなかったのではないか。だから,はじめからレーンは,そのことをするつもりで考えられた探偵ではなかったと思われる。そしてヴァン・ダインは自作の6作目,ケンネル殺人事件(1932)でそのことをしなかったから,レーンシリーズを四部作で,そのことをしたのではないか」というものでした。ホストは,ある程度資料を揃え,自分の考えに異論が出るとは考えていなかったので,驚愕と興奮で武者震いを感じるほど喜んでいました。そして,会場にも興奮と熱気が一気に押し寄せ,室温が上昇したように思えました。その意見を咀嚼し参加者の方々から,ちらほらと四部作の構成について意見が出始め,議論は熱を帯びはじめたところで,ホストから「クイーンがバーナビー・ロスを名乗ったのは,そのことをクイーンではできないけれど,ロスでならやってもいいのではないかと考えたからではないか。1929年にデビューした際に共作を隠し,覆面作家として活動しはじめたのも,ロスという,もう一人の作家を世に出して,ヴァン・ダインの発言したそのことを行う計画をしていたからではないか。そして,自ら編集するミステリ・リーグ誌に最後の事件を一挙掲載したのも,出版社の編集者が目を通すことによってヴァン・ダインに知らされ,出版の障害になることを怖れたからではないか」という意見をさせてもらいました。四部作の構成の始まりは,いつからだったという解答は得られませんでしたが,これだけ,いろいろな意見が出るというのもレーン四部作が深く考えることのできる作品であることの証左であると思いました。また,作者の創作過程の思考を考えていくことの楽しさも,読書会の醍醐味であると思わされました。
 他にも「クイーンの一人が,現代のシェイクスピアを目指していたと聞いて,レーンシリーズか四部作で終わったのは,シェイクピアの悲劇四部作を意識したからではないかと思います」や「今のシリーズ物は漫画や小説,映画にしても無理に長くなってしまうところがあるので,四部作で終了するのはよかったと考える」などの意見も出てきました。ここまでが制限時間となり,読書会は終了となりました。読書会だけで,なんと3時間半が過ぎていました。

第四幕
 作品に対する疑問,越前先生への質問は懇親会,二次会へと持ち越されることになり,いざ居酒屋へ。飲み物を注文してそれぞれに配られていくと,ホストは緊張がゆるんだこととビール好きが祟り,越前先生を目の前にして乾杯もせず一口。越前先生は此方をちらりと見た後は,微笑して知らぬ振りをしてくれました。ありがとうございます。そして本当に失礼しました。
 無事,乾杯を終えた後,参加者それぞれで情報交換や親交を深める話題に入ると思いきや,レーン四部作についての話しはつきない状況でした(もしかして,ホストだけだったのかもしれませんが,わたしの周りは,レーン四部作が話題の中心でした)。
 それぞれが越前先生への質問や昨今の出版業界についての話しをする中,会が進み,席の入れ替えをしていくと,T氏から「Xの悲劇」と「Zの悲劇」に対する問題点を提示されました。Xでは地の文の使い方(わたしも気になっていました),Zではアリバイの証明について,ここでは詳しくお知らせできませんが,なるほどと思わされました。ホストは次の日,二日酔いでふらふらになりながらも,こうすれば納得のいく形になったのかもしれない,と愛するZの悲劇について愚考して過ごしました。次の日になっても楽しませてくれるレーン四部作でした。
 二次会では,越前先生のライフワークであるラーメンや巡りに同行させていただき,思い思いにラーメンや麻婆焼きそばの味を楽しみました。
 そろそろ解散も近付いて来た頃,間が悪く失礼かと思いましたが,ホストは越前先生に「海外には起承転結の意識があるのか?」と訊ねてしまいました。そして越前先生はからは優しく「あります」との即答をいただきました。個人で調べて,海外よりも日本になじみのある考え方と思っていたので,クイーンがレーンシリーズを四部作にしたのは,日本にも興味があって,起承転結という言葉を知っていたからではないかと妄想していましたが,越前先生のお話で,海外にも起承転結の文化があり,クイーンが意識して作ったのかもしれないと思いました。しつこくもまた,「Zの悲劇の設定で,男女の師弟関係が出てきますが,前例や基となるようなお話はあるのでしょうか?」と立て続けに訊ねてしまいました。優しい越前先生は「それは,わからないです。調べてみましょう」とお答えいただきました。酔いの不埒とはいえ,本当に失礼しました。そして,本当にありがとうございました。

舞台裏
 越前先生をお見送りして,夜もだいぶ更けていましたが,有志でパブへと足を運び,レーン四部作,そしてミステリと今後の読書会について呑みながら話し続けました。いや~,楽しかったです。
 こんなに楽しい思いをさせてくれたのもレーン四部作のおかげです。
 本当にミステリって凄い!

舞台裏ふたたび
 せんだい探偵小説お茶会の世話人M氏に読書会報告文書を送り,お返事をいただいたところ,大事なことが抜けていると教えていただきました。それは,今年のせんだい探偵小説お茶会の作品選びで行われた「作品に関係する色」でした。
 読書会中にも話題に触れなかったので,報告文でもすっかり忘れてしまいました。レーン四部作の色が何であるかについて触れずに読書会が進んだのは,それだけ作品について深く話し合い,盛り上がっていたからだ,と肯定的に受け止めることもできますが,告知文で「読書会で解答」と明示しておきながら触れなかったことは,ホストとして忸怩たる思いです。すみませんでした。
 さて,気を取り直して,今年のテーマ,色でつなげる読書会の掉尾を飾ったレーン四部作の色とはいったい何色だったのか?
 それは,レーン最後の事件に小道具として登場した髭の色,虹色でした。
 色の種類ではないかも知れませんが,最後の色として相応しいと思い取り上げました。
 読書会に参加された方達は,勿論知っていたのだと思います。そして,暴走するホストに気を遣っていただいていたため,触れなかったのだと思います。
 このような気遣いをしていただける優しい方々との出会いも,読書会がなければご縁がなかったかもしれません。参加していただいた方々,本当にありがとうございました。

 色で始まった今年の読書会,最後は虹色で終えることとなりました。
 オズの魔法使いの「オーバー・ザ・レインボウ」を聴きながら,幕を閉じるというよりも,黒死館殺人事件の黒死館に登場する驚駭噴泉(ウォーターサプライズ)が作り出した虹を見て,更なるミステリの深淵に近付くことを夢見ながら,閉幕(カーテンフォール)を迎えたいと思います。

《閉幕》
———————————————————–

月替わりで、国内ミステリーと翻訳ミステリーを交互に課題本に掲げている当読書会。
次回は、白井智之『人間の顔は食べづらい』を1月25日に予定しています。

[Top]

13th Report

第13回 せんだい探偵小説お茶会主催

(翻訳ミステリー大賞シンジケート後援)

ジル・チャーチル『ゴミと罰』

読書会レポート

 

執筆者:マダム・リー

伝統の青葉まつりも終了し、隣県は六魂祭で賑わっていた5月末の日曜日、第13回せんだい探偵小説お茶会が開催されました。
参加者は8名、男女比は半々。初参加の方2名をお迎えできたのはとても嬉しいことでした。当初、せんだい史上最小催行人数での開催となりそうな気配濃厚だったのですが、無事通常運行となりました。ご参加いただいた皆様ありがとうございました。

まずは自己紹介と、コージーミステリなるものを読んだことありますか? そして今回の課題書『ゴミと罰』を読んでみていかがでしたか? というお話しから。

ミス・マープルのシリーズとか、ユーモア・ミステリ方面でクレイグ・ライス作品ならば(Wikipediaさんを参照すると、このあたりの作品もコージーと定義されるようなのでした) 読んだけれども、現代コージーには近づいたことない、という方がほとんど。女性好みの装丁でなぜかお菓子のレシピが載っているらしい=ミステリと関係ない部分が多そうに思える、あんまりミステリとしては期待出来なさそうな気配がする…等々、あえてそこに手を伸ばさない(他に読みたい本は沢山沢山ある!)というお気持ちは拝察出来るように思います。でもそれこそがコージーの魅力でもあるわけです。他ジャンル同様に、好みと相性、そして出会いのきっかけの問題なんですよね、なんてったって嗜好品なんですから。

課題書を読んでみての感想は、まず女性たちの会話が予想以上に歯に衣着せず辛辣!というものが多数。テンポよくて元気いっぱいの主婦たちの会話は、本作の大きな魅力であり特長でもあります。また、一品持ち寄りのホームパーティー兼各種会合、子どもたちの学校までの送迎、ハウスクリーニングの外注、ご近所に合鍵を預ける、といった我々日本の日常とはやっぱり異なるアメリカの日常生活がものめずらしかった、との感想も複数ありました。
そして「予想と違ってべたつかずあっさりした印象」「コージー(心地よい)というけれど心地よくない、むしろ心乱される。運転を危険行為として認識しない人というのは個人的に許せないし、隣家のハウスクリーニングに来た人に声をかける際のジェーンの高飛車な物言いが気になるし…」「中盤で明らかになる、ジェーンの夫にまつわる話が衝撃的すぎて、殺人事件はどうでもよくなった」「この自意識過剰なジェーンとは、私仲良くなれないと思った。そして170ページまでいっても事件は全く進展していない!」「この手のお話しだと、理解ある男性、というのが必ず登場するのがなんだか嫌…」「被害者の存在感が、ない」「刑事さんとはその後どうなるのかな?」等々、色とりどりの感想やご意見で話の花が咲いていきます。

さて、色といえば今年のせんだい探偵小説お茶会のテーマは“色”。にもかかわらず、今回の課題書のどこにどのような色が関係あるのかさっぱりわからんよ、というご指摘はそれこそどっさりありました。ごめんなさい。ジェーンが親友のレシピに基づき作成のうえ持ち寄るサラダがあるのです。このたかが人参サラダ一品に、ジェーンはとことん振り回されます。そうだあたしも作るんだった忘れてた、レシピも実は失くしてるけどまあなんとかなるかな、えええと材料は一体何を揃えればいいんだっけ、なにか特別なものが必要だったような気がするんだけど…。実は高いマネジメント能力が要求される主婦業には全くもって不向きであることが露呈されているこのエピソードに、激しく共感してしまったホストが、それでも元気にやっていけるさとばかりにキャロットオレンジってことで!とお願いしたのでした。そんなマネジメント能力皆無ホストに強力援軍が!なんと当日、某女性誌にキャロットサラダのレシピが載っているのを発見した参加者のお一人が、ご購入の上持参してくださったのです!しかも本当にオレンジを使ったレシピのもので、まさに運命的!本当に本当にありがとうございました。

予想以上にちゃんとミステリしていた、という感想も多かった本作。ご近所主婦グループの区別がつかない、料理を持ってきた順番はどうしても読み流してしまう、またなぜ人の出入りの多い時をわざわざ選ぶのか?そしてギプスの固定の状態考察(皆でついつい固定状態を模した右手を振り回す)なども。一人では読み飛ばしてしまっているところがくっきりと見えてきます。読んでいて残りのページがどんどん少なくなっていくのに、これ事件は本当に解決するの?と別の意味でハラハラした方も複数。ハウスクリーニングの方へのぞんざいな声がけの件や、みかんって日本のみかんと同じかな違うのかなという件、原書も用意してあればもっとよかったのになあと反省しきりです。
配偶者の浮気相手について、自分より若いならしかたないと納得出来るの?じゃあ年上なら?同年代なら?という話や、中年以上のロマンスって、翻訳物だとすぐ結婚となるよりもゆっくり仲を深めるような印象あるよねという話などで、たちまち時間が進んでいきます。

最後にホストがおすすめしたいコージーリストなどをちゃっかりご紹介。そして、以前同じ課題書での読書会を開催なさった名古屋読書会様からご提供いただいた、素敵なレジュメも配布させていただきました(世話人氏がきっちり準備してくださいました)。この場を借りて御礼申し上げます。
また、4月の翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンションに参加した世話人氏から、当日のレポや資料の紹介などをいただき、さらに盛り上がります。話は尽きないのですが時間は尽きたので、ひとまず読書会終了。次の一冊に繋がるきっかけがもし作れていたら望外の幸せです。今回お話しできたみなさま、別の機会にお話ししたみなさまとこれからお会い出来るみなさまのミステリ愛に乾杯。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

———————————————————–

月替わりで、国内ミステリーと翻訳ミステリーを交互に課題本に掲げている当読書会。
次回は、貴志祐介『青の炎』を7月20日に予定しています。
近々発表される告知にご期待ください。

[Top]

12th Report

第12回 せんだい探偵小説お茶会主催

(翻訳ミステリー大賞シンジケート後援)

イーデン・フィルポッツ『赤毛のレドメイン家』&江戸川乱歩『緑衣の鬼』

読書会レポート

 

執筆者:蒔野正徳

3月23日に第12回となるせんだい探偵小説お茶会を開催しました。

今回の課題本は、イーデン・フィルポッツ『赤毛のレドメイン家』と江戸川乱歩『緑衣の鬼』のダブル課題本です。
今年のせんだい探偵小説お茶会のテーマは「色」ということで、『赤毛のレドメイン家』の「赤」と『緑衣の鬼』の「緑」は将来を見据えた乱歩先生が『緑衣の鬼』というタイトルをつけてくれたのでは?と錯覚してしまうぐらいピッタリ。
・・・『緑衣の鬼』は『赤毛のレドメイン家』に感銘を受けた江戸川乱歩が『赤毛のレドメイン家』を翻案して書かれた作品なんです。

今回の読書会は過去最多タイとなる10名での開催となり仙台はもとより、福島、山形からも参加頂きました。

さて、皆さんの自己紹介も終わったところで、まずは『赤毛のレドメイン家』の感想へ。
「マーク・ブレンドンがとにかく嫌い。途中で死んでくれないかと思った」
という過激な意見がいきなり飛び出て、参加者を唖然とさせた。
しかし、マーク・ブレンドンが嫌い、という意見は他の参加者からも寄せられたが、男性と女性とで意見が異なるようで、女性陣はマーク・ブレンドンを嫌い、男性陣は逆に「共感できる」というように擁護にまわるという一幕も。
他にも
・役立たず
・ピーター・ガンズの邪魔をしている
・優秀な探偵と紹介されているのに、ダメダメ
という意見が寄せられ、聞いているうちにマーク・ブレンドンに同情したくなってきました。。。

他の登場人物への感想も寄せられましたが、ネタバレが含まれてしまうため、自粛。

一通り感想が終わったところで、ホストからイーデン・フィルポッツの作品リストの紹介(出典:本棚の中の骸骨)、ボルヘスによる最良と思う百の作品の中にも『赤毛のレドメイン家』が含まれているということが紹介されました。(ミステリー作品としては、コリンズの『月長石』、チェスタトンの『青い十字架』、ポーの『短編小説集』等が選出)
その後、『テンプラー家の惨劇』巻末の「フィルポッツ問答」や江戸川乱歩の『鬼の言葉』収録の「赤毛のレドメイン一家」が紹介(後者はほぼ全編を朗読)されました。

そして、ダートムア小説と称される田園小説で人気を博した作者ということで、濃厚な色彩表現、細かな情景描写が印象的であり、「赤プラスアルファ」として色シリーズに相応しい作品ではないかとまとめられました。

作品全体としては概ね好評で、「むかし読んで犯人は知っていたが再読しても面白かった」、「むかし読んだのに犯人は忘れていて改めて驚いた」、「初めて読んだが古い作品にしては読みやすい」、「犯人像が強烈で魅力的」、「情景描写がイメージ鮮やか」といった声が聞かれました。

一通り『赤毛のレドメイン家』の議論が落ち着いたところで、次なる課題本『緑衣の鬼』の感想へ。
影や消失トリックを盛り込んだりということで、やりすぎという声がちらほら。
「情景描写や恋愛を乱歩が書けなかったので、そういった要素を替わりに詰め込んだのでは?」
「月刊誌の連載だったため、毎月何らかの山場を作る必要があったからでは?」
と、様々な意見(憶測)が交わされました。
また、「なぜ、緑にこだわったのか?」という意見も出ましたが、乱歩が妻に「緑館」という下宿を営ませていたということもあり、緑という色にこだわりがあったのではないか、といった憶測も。

貸金庫のトリックや様々な矛盾はあれど、結局は「乱歩だから」の一言で全ての矛盾が片付けられることに。
そして、最終的には一人の参加者から「探偵はのりすぎ、犯人はやりすぎ」という名言が生まれ、閉会となりました。

———————————————————–

月替わりで、国内ミステリーと翻訳ミステリーを交互に課題本に掲げている当読書会。
次回は、杉江松恋氏が海外ミステリーマストリード100でも紹介されているジル・チャーチル『ゴミと罰』を5月に予定しています。
近々発表される告知にご期待ください。

[Top]

10th Report

第10回 せんだい探偵小説お茶会主催

(翻訳ミステリー大賞シンジケート後援)

ヴァン・ダイン『グリーン家殺人事件』(創元推理文庫)読書会レポート

 

執筆者:暮尾

せんだい探偵小説お茶会は、課題図書に「グリーン家殺人事件」を選び、一月十九日、市内のとある一室で、開かれました。
新年一回目から参加していただいた皆様、まことにありがとうございました。残念ながら都合が合わなかった方、次回以降の 読書会でお待ちしております。
さて、今回の読書会を一言で表すなら、「グリーン家は、いかに解体されたか?」でしょうか。
色違いだろ!などといったお叱りを承知で続けますと(笑)、ミステリとしての完成度から、心躍ったシーン、矛盾点に、ジュブナイル版 や、後に発表された他作家の作品との相違、関連まで幅広く、活発な議論が交わされ、ミステリ初心者の方はもちろん、マニアの方にとっても、有意義な時間であったように思います。
「初めて買った文庫本が、グリーン家で……」、「初めて読んだのが、小学生(中学生)の頃で……」という方もいらっしゃり、今回の読書 会に向けての再読で、初読の際とは、異なる 感想を抱いたとの声も。
おやつを頬張り、和気あいあいとした雰囲気の中での、それぞれの踏み込んだ主張は、『読者の挑戦』を境に、数々の謎が積み上げられた事件という山(ある意味、ヤマですね)を論理的に崩す、解体していく探偵の推理のよう でもあり、それでいて、独自の主張が飛び出すこともあるのですから、読書は一人でできますけれど、読書会は、やはり大勢で行うのが楽しいですね。
作家によっては、いまだに新版、新訳が出てこない作品もある中、それでも多くの翻訳作品が本屋に並んでおり、いずれこの「グリーン家」 も、姿を変え、新たに出版されるかもしれません。
人間関係と同じく 、どの本を手にするかは、縁があるか、ないかで決まってくるのかもしれませんが、翻訳作品も含め、小説を読むという行為は、その人の心を潤し、記憶に残るものだと個人的には思います。
そういう体験を、一冊でも多くしたいと思えた今回の読書会でした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

[Top]